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令和源氏物語 宇治の恋華 第五章/会うは別れ 解説

みなさん、こんにちは。
次回、『令和源氏物語 宇治の恋華 第百三十七話 浮舟(一)』は、4月30日(火)に掲載させていただきます。

本日は第五章「会うは別れ」の章について解説させていただきます。

 匂宮の初瀬参り
宇治八の宮にお仕えしている老女房の弁のおもとからもたらされた真の父の真実は、薫をさらなる苦悩に落とし込みました。
そして道ならぬ恋の末に誕生した己を厭わしく、呪わしく感じるのです。
ただでさえ多忙である上に、大君への想いを断ち切りたいと、なかなか宇治へ赴くことができませんでした。
しかし大君を想う心は消えるどころか、あの垣間見た橋姫達の美しさを思い浮べるたびに薫を甘く苦しめるのです。
薫は匂宮を訪れて橋姫達を垣間見た話をまるで夢物語のように語りましたが、その珍しく熱を帯びたような様子に匂宮は大きく心を動かされるのです。
そこで初瀬参りという名目で宇治を訪れたのでした。
時は春、若芽の息吹を感じながら若い貴公子達が管弦に興じるのを、対岸の八の宮と姫君達はうっとりと耳を傾けておりました。
かつて宮中に会った時のことを思うと八の宮はこのような山里に連れてきてしまった姫達を不憫に思われます。それほどに朽ちさせるには惜しい器量なのです。
翌日、八の宮は舟を差し向けて薫に歌を贈りました。
宮の意向を汲んだ貴公子達は楽を賑々しく奏でながら山荘を訪れました。
匂宮だけはその身分の高さを誇示するように歌を贈っただけでしたが、大君が詠んで中君がしたためた美しい手蹟の返事は、匂宮の心を掴んで離さないのでした。
八の宮にすっかり心酔してしまった貴公子達の関心はその姫君達にも向かいました。多くの文が寄せられて、たいそう困惑した八の宮でしたが、他の貴公子達を目の当たりにしたことで薫への好意が増してゆくのです。

 師であり、父として
八の宮は厄年であることからも、己の残りの命がないことを悟りました。
そうして心にかかることといえばやはり残される娘達のことばかりです。
薫君の気性を鑑みると姫達を打ち捨てることなく面倒を見てくれるというのはわかっておりますが、やはり女性としての人生を全うしてもらいたいと願うのです。
そうなれば薫君以外には娘達を託せる若者はいないのでした。
多忙で宇治から足が遠のいていた薫は、秋の除目(官吏の任命)で中納言を賜りました。
その知らせを聞くや、八の宮は山の幸をふんだんに盛り付けた桧破子(ひわりご=桧で作られたお弁当箱のようなもの)を祝いに贈り、薫を宇治へと誘ったのでした。
八の宮がほろほろと涙を流され、世を儚んでいるのを不審に思う薫ですが、意を決した宮はその心の裡を明かしました。
姫を許されたと悟った薫は、師であるとともに義理の父として、尊敬と愛情をこめて姫達を守ることを誓いました。
どこか似ている二人はまことの父と子のように心を通わせたのでした。

 会うは別れ
突然もたらされた八の宮の訃報に薫は呆然と現実とは考えられませんでした。
そして、最後に語らった時のことを思い返しては、宮の仰った「会うは別れ」という言葉を噛みしめずにはいられないのです。
人と出会うということはその人との別れが必ず待ち受けているのです。
そうかといって八の宮との出会いで薫は救われ、出会わなければよかったということなどはひとつもないのです。
人の命は儚い、それゆえに時を無駄にしてはならないと、薫は大君を娶ることを固く決意するのでした。

第五章の第一話はこちらです・・・

明日は第六章/空(くう)について解説させていただきます。



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