紫がたり 令和源氏物語 第四百四十六話 幻(十五)
幻(十五)
源氏の手元にはもう紫の上の手紙しか残っておりません。
しかしこれを焼く時は紫の上との別れであるという思いが強いせいでしょうか。
源氏はこの書簡の束をなかなか開けずにいるのでした。
それよりはまず他にするべきことがあろうよ、と理由をつけて先延ばしにしたところでいつかはこの手紙を手放さねばならないのですが、今日ではない、と日々己を騙し続けているのです。
財産のあらかたは惟光のおかげでそれに相応しいよう分配し、紫の上へと思っていた分などは上の菩提寺にすべて寄進しま