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翻訳者のつぶやき なんで私が『臓器収奪ー消える人々』を... その4

「腕に業(カルマ)が溜まってるんでしょうね」な、なんというお話...

実に物騒な書籍の翻訳者になってしまいました。その経緯と本書の内容に関わる逸話や情報をお伝えできればと、ブログを書いています。

(4)腕が...

【新疆での試み】

「とりあえず第一章と第七章を翻訳したら?」と著者のガットマンが提案してくれた。2016年1月に会ってもらったときのことだ。

なるほど。これまでエージェントを通して、プロモーション資料やガイドブックなどの翻訳はしてきたが、翻訳出版は別世界。すでにキルガー、マタス共著の『中国臓器狩り』も翻訳出版されている。サンプル版を持って出版社にあたっているうちに、誰か私より相応しい翻訳者にも出逢えるかも...。というわけで、言われた通り、第一章と第七章から翻訳を始めた。

第一章は「新疆での試み」。法輪功迫害の始まる前、ウイグルで1990年代に実験的に囚人を対象に臓器狩りが行われていた。ガットマンがインタビューした証言者(死人に口なしなので、主に加害者)が語っていく。

結構最初のほうに、ウイグル人の元外科医エンヴァー・トフティーの話が出てきた。スコットランド議会での証言をラジオ録音で聴き、ロンドンの絵画展では直に聴いた話だが、ガットマンの執筆で読むとクラクラした。加害者による動かぬ証言。思わずトフティーさんに「よくぞ証言してくださいました。(人類に代わって)お礼を申し上げます」とメッセージを送ったところ、「実は腕が非常に痛い」という返事が来た。

広島でトフティさんに会った日本人の方に事情を話したところ、「いやあ、腕に業(カルマ)が溜まってるんでしょうね。痛みを感じることで業を返しているのかもしれません」というコメント。私も訳している内容の重みに耐えかねていた。体調を崩して鼻をぐすぐすさせながら、最初の章をこなした記憶がある。

【死のシルクロード】

トフティさんは、核、ウイグル、臓器収奪という三つの現代社会の大きなテーマを個人的に抱え込んでいる。ウイグルのウルムチ中央鉄道医院の一般外科医だった。

現地の発癌率を全国平均と比較し、中国によるロプノールでの核実験を数値で証明した。英国のジャーナリストにアプローチされ、新疆ウイグル自治区の核実験被害の実態ルポの制作に協力。西洋人をガイドする現地人のふりをして、現地入りした。その様子は『死のシルクロード』(26分)に収録されている。1998年に英国のチャンネル4で放映後、世界83か国で上映された。

なお、中国での核実験を暴露した人物として、日本ではアニワル・トフティとして知られている。臓器収奪関連では英語からの音声表記としてエンヴァーとしているが同一人物だ。

【告白】

ドキュメンタリー制作に協力することは、ウイグルの土地に戻れないことを意味した。最終的に英国で難民申請する。英国で暮らすようになり、中国語新聞から臓器収奪のことを知る。自分が上司の命令でやったことではないかと気づき、ガットマン氏の調査発表会で告白する。『知られざる事実』(56分 有料)では中国で植え込まれた価値観が、英国で生活していくうちに徐々に変化していく過程が語られていて興味深い。

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エンヴァー・トフティ ー 柔らかい口調と立派な体格で、仏陀を思わせる男(本書『消える人々』p.39より。写真はp.40。)(撮影:Simon Gross, Jaya Gibson)

本書『消える人々』のアマゾン・リンクはこちらへ。

ワニブックスのニュースクランチで、本書 第一章の冒頭部分を紹介してくださいました。こんな感じで始まります。覗いてみてください。

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