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生粋のプログラミング好きがプログラミングだけで食べていく難しさ

【これからの時代は自分の好きなことを仕事にしろ】と声高に言われるご時世。

高度なプログラマ人材は人手不足数多なので「プログラミングが好きな人は簡単に好きを仕事に出来て、さぞや恵まれてる」と思われるかもしれません 。

でも実はここには思わぬ罠があります。

今回のテーマは【プログラミングが好きでたまらない人ほど、プログラマに本当になるべきかどうかは一度考えた方がいいんじゃないか】です。

誰が為のプログラムか

私の兄は、昔熱心にバンド活動をしていました。
が、ある時を境にあっさりと音楽を捨て、普通に製造業の会社へと就職。

最近、私は彼に「音楽で食べていこうとは考えなかったの?」と聞きました。
彼の答えはこうでした。

自分が作りたい音楽】と【みんなが聴きたい音楽】は違う。
音楽で食べていくということはな、自分の作りたい音楽じゃなく、みんなが聴きたい音楽を作らなきゃいけない、ってことなんや。

あくまで彼は自分の作りたい音楽を続けたかったのだ、だから音楽を仕事にしなかったのだと。

この言葉を聞いた時、【音楽】を【プログラミング】に置き換えても全く同じことが成り立つと直感したんですね。

自分が書きたいプログラム】と【みんなが書いてほしいプログラム】は違う。
プログラミングで食べていくということは、自分の書きたいプログラムじゃなく、みんなが書いて欲しいプログラムを書かなきゃいけないのだ。

どうしてお給料はもらえるのか

ここで強調したいのが、上記の「みんな」とは「プログラミングの対価としてお金を出してくれる人」であることです。

それは受託プロジェクトであれば発注元のクライアントでしょうし、ITサービスの運営会社ならサービスの利用者にあたります。

お給料がなぜもらえるのか。
端的に言えば、お客様の課題や不満を自分の仕事で解決し、その対価としてお金をもらうからです。

生粋のプログラミング好きは、高度で芸術的なコードを書きたい病に陥ることがあります。
それが技術職の同僚やSNSで知り合った同じ職種の人から敬われることにも繋がるので、余計に。

けれどいくらコードが高度で芸術的だろうとも、それがお客様の課題や不満の解決になっていなければ、お給料を稼ぐことには繋がらないのです。
自分が作りたい音楽を作っても、他人がそれを聴くためにお金を払ってくれるわけではないように。

プログラミング好きも実は冒頭の【誰が為の音楽作りか】問題と同じ構造を抱えているのです。

本当に不足するIT人材は「ITで課題を発見解決する人材」

プログラミングができる人材−−−広く言い換えればIT人材を、今はどの企業もとりたがっているのは言うまでもありません。
けれど各企業が本当に必要なのは 【IT で自社の課題を解決してくれる存在】です。

だからいくらITスキルが高くても、自社のプロダクトや課題解決に熱心になれない人はお断り。そういう採用方針がほとんどではないでしょうか。
(実際、私が今いるITベンチャーもそうです)

言い換えると、いま世の中で叫ばれるIT人材不足の本質は
ITを使って世の中の課題を発見し解決できる人材
の不足なのです。

IT好きによるIT好きのためのIT製品作りができる人材は求められていない。
この分野が好き好きで仕事にしたいと思うほど、一度立ち止まって冷静にこの事実を受け止めて考えるべきだと思っています。

他ならぬ私自身、かつてこの壁にぶち当たったのですから。

とある優秀なプログラマがPMを続ける理由

生粋のプログラミング好きがどうやって食べていくか。最後に私の知る一例を紹介したいと思います。

私が新卒で入ったSIerの同期に、情報系大学院卒でとても素晴らしいコードがバリバリかける男性がいました。
三度の飯よりプログラミングができる、絵に描いたような優秀なプログラマです。

けれどSIerは業界構造上、実際にコードを書く機会が少ない。彼もやがてはプロジェクトマネージャー(PM)としてITプロジェクトのハンドリングをするようになりました。
しっかりとしたITの基礎知識も相まって、PMとしても仕事の成果は順調に上げていたようです。

しかしこの業界でよくある話が「SIerは実際にコードを書く機会が少ないから、コードをバリバリかけるITベンチャーに転職する」パターンです。
私は彼もいずれはそのルートをいくのだろうと思っていました。

ところが、これが意外とそうでもなかった。



むしろ私の方が先に根を上げてITベンチャーに転職。
彼は私の転職話を熱心に聞きたがり、この業界に関心がある様子を見せていたのですが、一方で酷く転職を迷っている様子もありました。

「私はあなたの技術力なら十分ITベンチャー界隈でもやって行けると思う。どうして迷っているの?」
私の素朴な疑問に対する、彼の回答はこうでした。

「俺は自分の好きなようにプログラムを書きたいんだ。会社のサービスのためにプログラムを書きたいんじゃない」

「このサービスのプログラムを書きたい!と強い思い入れがあるサービスに出会えたらいいんだけど、今のところそんなやつが見つからない」

「今のPMの仕事は自分の知識を生かして無茶苦茶稼げる。だったら、PMで好きなように生きていけるだけの金を稼いで、趣味でプログラミングをやってた方がいい」

プログラミングが好きだからと言って金を稼げるわけではない。
生粋のプログラミング好きである彼がPMを続けていた理由は、この残酷な命題に対する、彼なりの合理的な生存戦略だったのです。

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