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お灸のお話 その2

ゆかり堂では、お灸を比較的たくさん使います。

冬場の寒い時期のほうが数も量も多くなりますが、
もちろん夏でも使います。

お灸をすることは必須ではなく、
からだの状態を観て使うか決めますが、
ほぼ全員にお灸をしています。
 

台座灸 せんねん灸

世の中で一般的なお灸としては、
『せんねん灸』があります。

せんねん灸

『せんねん灸』というのは、
会社名・ブランド名・商品名です。
お灸の形式としては「台座灸」と言います。

『宅急便』はヤマト運輸のサービス名・商品名ですが、
「宅配便」の種類に『宅急便』『ゆうパック』『飛脚宅配便』
があるように
「台座灸」のうちのひとつが『せんねん灸』です。
 

『せんねん灸』は火をつけてそのまま置くだけなので、
家庭で簡単にお灸をおこなうことができます。
 


艾(もぐさ)をひねる

鍼灸師でも『せんねん灸』を使うことはありますが、
艾(もぐさ)をひねって、肌に直接お灸を据えることもあります。

艾(もぐさ)

米粒の半分くらいの大きさの艾(もぐさ)に

半米粒大にひねった艾(もぐさ)

火の点いたお線香を近づけると、艾が燃えます

お灸を据える数を数える単位は壮(そう)と言います。
1つ、2つではなく、1壮、2壮です。
 

多壮灸(たそうきゅう)

艾をひねってお灸を据える場合、
経穴(ツボ)に半米粒大のお灸をいくつか据えていきます。

私の場合は、症状や目的にもよりますが、
3~14壮くらいが多いです。


同じ経穴(ツボ)に繰り返し半米粒大のお灸を数多く据えて、
症状が緩和・消失 もしくは 温感・体感を伴うまで据え続けることを
多壮灸(たそうきゅう)と言います。

なので、据える数が何壮になるのか、人によって異なります。
私の場合は、多壮灸と意識してお灸を据える場合は、
30~100壮くらいになります。


私はお灸が好きなので、治療にお灸を多く取り入れますが、
この多壮灸も効果を感じやすいので、
冷えや虚弱体質改善などに用いることが多いです。


「関元の灸」の流行と衰退

以前に読んだ文献の中の、
「関元の灸」の話が印象的でした。

現在から900年ほど前、
ある人物が仙人の類と出会い、「煉丹術」を授かり、
90歳になっても、ふくよかでみずみずしく、
毎日、十人の女性と媾わっても衰えることがなかった
とのこと。

毎年、夏と秋の変わり目に、
関元穴に焼灼灸を 千壮 据えていたら、
次第に暑さ寒さにもこたえず、何日食べなくても飢えなくなってきた
との内容でした。

唐宋時代には、
関元穴への多壮灸についての文献は多かったようですが、
明清時代には、
その記載も少なくなり、
現代の文献では、ほぼ触れてもいない
という状況のようです。

こうした先人たちの経験や歴史を経て、
経穴(ツボ)や治療法が、新たに現れては消え、を繰り返し、
その中で効果的であり受け継がれてきたものを
今、私たち鍼灸師は使わせていただいています。


参考文献:針師のお守り 浅川要 著 東洋学術出版社


多壮灸の実体験

私が鍼灸専門学校の学生の頃、
足裏にある とあるツボが食中毒に効果的
という内容を、とある文献で見つけました。

(試してみたいけど、食中毒になんてなることもないし…)
と思っていました。
 

ある夏の日に、晩ご飯を作ろうと冷蔵庫を開けると
色が少し悪くなっている豚肉がありました。
消費期限内だったと思うのですが、
保存の仕方が良くなかったのかもしれません。

普段なら絶対に食べないのですが、
夏休み中であることに加え、
もしお腹を壊しても、お灸の治療を試すことができるし
と思い、しっかり火を通して食べることにしました。

食後、しばらくすると、
お腹がゴロゴロ鳴りだし、
ひどい腹痛と激しい下痢になりました。
(予想通りですが…)
 

何度もトイレに駆け込むことになるのですが、
さっそく、トイレとトイレの合間に
艾をひねってお灸を何壮も据え、
トイレに行っては、艾をひねりお灸を据える
を繰り返していると、
だんだんお灸を据えているところに温かさを感じ始めました。

それと同時に、お腹にも温かさを感じ始め、
それに伴い、トイレでの便の感じも変わり始め、
ピタリと、まではいきませんが、
徐々にひどい腹痛と激しい下痢はおさまりました。
 

おそらく、100壮以上艾をひねってお灸を据えましたが、
(やはりこのツボへの多壮灸が効いたんだ)
と実感したものです。
 

お灸の心地よさ

お灸は未経験の方からすると
「熱そう」と思われ、
経験されている方でも、
「熱ければ熱いほど効果がある」と
我慢するものと思っている方もいらっしゃるようです。

症状により、熱さを伴うやり方もありますが、
本来はとても心地よいものです。

ジワーっと温かさがからだに沁み込んでいき、
眠くなってくることもあります。


艾をひねっていくつも据えるお灸のやり方は、
手間と時間がかかるため、鍼灸院でも敬遠されがちです。

他にも、やけどの心配・お灸の匂いなどの理由から、
お灸自体を取り入れない鍼灸院もあるようです。
お灸のお話 その1 の中でも触れています)


艾をひねることは難しいかもしれませんが、
ご自宅でも簡単にできる台座灸(せんねん灸など)もあるので、
その本来の心地よさを知っていただき、
お灸の良さや効果をもっと知っていただければ、と思います。


お灸のお話 その3へ続く

お灸のお話 その1はこちら


ゆかり堂治療院


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