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昆虫すげえや

 今日も今日とてサラリーマン業務に従事し社用車で外回りに繰り出す中、とある事業所の、建物の外でのこと。
 関係者・業者以外の侵入を防ぐため、いくつかの三角コーンにコーンバーが乗っけられたポイントがあり、こちらが赴いた際はコーンバーを少しの間だけ外させてもらって作業にあたる。
 手順自体はいつものことなのでいつもの通りにコーンバーに手をかけると、視界の端に何か緑色の細いモノが入り込んだ気がした。普段そんなものを目にした記憶はないものの、今日は風があるし草か枝でも引っかかったんだろうと、特に気にしないでそのままバーを引き上げた。ひらと緑色の物体が落下して、さてこいつは何ぞやと改めて下方を確認すると。
 カマキリ。
 コーンバーの端から落下し、今度はコーンベット(三角コーンに乗せる重石代わりのゴムのカタマリ)の上で微動だにせず佇んでいるのは、一匹のカマキリだった。
 突然のフリーフォールに多少なり驚きでもしたのか、動く気配はない。ただ落下による手足の損傷などはなさそうなので、まあ落ち着きを取り戻せばそのうち何処へなりと行くのだろう。こちらはこちらでさしたる時間もかからずに必要な作業を終えたので、わずかばかりの間、そのカマキリを眺めていた。
 と、そこに、もう一匹の、別の虫が。
 とことこ、と、カマキリの方へと。
 黒いコーンベットの上でよく目立つ白っぽい色の小さな虫で、体長5センチほどでそれほど大きくないサイズのカマキリと比べても10分の1くらいの大きさしかない。そんな虫。

 こいつは、
 このまま進むと、
 実に分かりやすい結果に、
 なってしまうのではなかろうか?

 進行方向のすぐ先に待ち構える捕食者にまるで気付く風もなく、その白い虫がカマキリの脇を通り抜けようとした――刹那。
 すっ、と。
 それまで微動だにしなかったカマキリが両の鎌を伸ばしたかと思うと、驚くほど鮮やかに獲物を捕らえ、白い虫の体は身じろぎの間すらなく大地から離れてしまったではないか。
 無駄な動きがなく、素早く、正確。かつ、ただただ自然に――
 人間が回転ズシの皿に手を伸ばすくらいに力まず獲物を拾い上げ、そして始まるもぐもぐタイム。
 
先刻、しばらく三角コーンに触れなければ小さい方の虫は助かっただろうが、一方でカマキリはハラをすかせたままだったかもしれない。両方いのちだいじに、とするにはなかなか難しく、この一瞬に食物連鎖の一端を垣間見て、野生の世界は厳しいなあ、などと思ったり。

 見えない相手と戦わなくてはならない人間社会も、それはそれで厳しいけれどね。

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