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とくべつな早朝

結局2時間ほどしか眠れないまま起床時刻を迎えた。
アラームをセットしたのは、4:20、4:25、4:30。前日に昼過ぎまで眠りこけていたせいか午前2時をまわっても寝付けず、浅い眠りと軽い悪夢をくり返すうち目が覚めたのだった。
重い体をなんとか起こして手早く身支度をととのえ、荷物の最終チェックをおこなった。昨夜遅くまで騒いでいた隣人のことが大変腹立たしかったので意味もなく掃除機をかけてやったのち、戸締まりをたしかめて家を出る。

午前5時をまわったばかりで、外はとても寒かった。
まだ煌々と光る月に照らされながら、足早に駅を目指す。ひとけのない道でがらがらと耳障りな音を立てるスーツケースが重かった。
新宿じゃなくて代々木で降りて、品川から京急本線。人影のまばらなホームで羽田空港までの経路を何度もたしかめ、わたしは電車に乗り込んだ。
始発からまもない車内には、終電の名残りがまだ少し漂っている。煙草とアルコールの入り混じったにおいが時折ぷんと鼻を突いた。

代々木駅のホームで空を見上げると、家を出たときよりもずいぶん明るくなっていた。
うす青い空の色と、どこかよそよそしいようなつめたい空気。ひさしぶりに目の当たりにした早朝は、父とともに上京した日の朝を思い起こさせた。あの日は西明石駅の新幹線のホームだった。

新宿駅でじゃあまたねと手を振りあう若者たちは、きっとこれから家に帰って眠るのだろう。
一日のはじまりと終わりを迎える人たちが等しく入り混じる不思議な時間帯。日曜日であるせいか勤め人らしき姿は少なく、いつもと同じ電車なのにまるで違った様子なのがおもしろかった。
これから誰とどこに行くの、何をするの。ええ、わたしは沖縄へ発つ予定です。寝不足をとおりこして高揚した頭で、誰彼かまわずそんなことを(心の中で)話しかける。
この非日常感がたまらなく好きだなあと思う。多分もうすでに旅は始まっているのだ。

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