見出し画像

人気のない夜の公園はわたしにやさしい

仕事へ出る。外へ出たついでに散歩して帰ろうとするが、あまりに日が強い。それでも、と歩こうとするとひとが押し寄せてきて圧倒される。今日は天気のいい日曜日なのだ。夜にまた出直そうとまっすぐ帰る。

19時。玄関の扉を開けると涼しくて驚く。室内は27.4℃なのに、外は熱狂した大地に雨が降り、その熱を冷ましていったらしい。わたしは本を収めた箱を抱えて外へ出る。

公園に差し掛かったところで、つよい風が向こうから吹いてきて、急に体が軽くなる。重力で引き止められていた体から解き放たれ、たましいそのものになったように軽い。

心地よく、清々しく、幸福で気が遠くなり、本当に逝ってしまいそうだ。死ぬ瞬間もこんなふうにあっけないのかもしれない。できるだけ健康で幸福に、大切なひとたちとこの世に留まれるよう、静かに祈りながらコンビニへ向かう。

用が済んでいま、公園のベンチに座っている。はら、はらと雨が降ってきて、iPhoneの液晶を濡らしていく。白い画面の上に落ちた雫ははっとするほどあざやかでまぶしく、色の仕組みをまあるく教えてくれる。

濡れたアスファルトの匂いで肺が満ちる。画面が小さな赤、緑、青であふれる。遠く光る車のヘッドライトが地上の星のように夜を照らす。いつも見上げているはずのあの星も、近くで見るとものすごくまぶしいのだ。星の輪郭を雨がなぞっていく。花柄の傘はまだ開かないでおきたい。人気のない夜の公園はわたしにやさしい。

この記事が参加している募集

雨の日をたのしく

いつもお読みいただきありがとうございます。いただいたサポートは、これからの作品作りに使いたいと思います。