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今、わたしとあなたの「いま」は違う

朝が来て、昼が過ぎ、夜がおとずれる。カレンダーは一日一枚ずつきっかりめくられていくけれど、ああ、もう5月14日なのかと驚きを持って眺めてしまう。

時間は自分を通り抜け、風のようにどこかへ怒涛のごとく去っていく。時を見つめようとすると、それは目の前から消え去ってしまう。時計の針が自分たちを縛りつけていた金具を吹き飛ばし、宙に舞い始める。左から右へと進んでいく、あの、なじみの時間軸が溶け出し、過去、現在、未来、いや、それを超えた思いがけないところで像を結んでいる。GPSではとらえられない場所、そこはいったいどこなのだ。あなたはどこにいるのだ。異世界へ行く時空のゆがみができるときのように、わたしは、あなたは、たやすく時間を、空間を、超えていく。

子どもが朝から水遊びをしている。泣いている声、これはいつのだったか。
これを読んでいるあなたとわたしはいま、同じ時間を生きているのだろうか。たぶん、そうではない。生きているのは「いま」だけど、それぞれの「いま」が違っている。

時間の概念をうしなったいま、確実なのは、朝と、昼と、夜である。日がのぼり、頭上を明るく照らし、山の向こうへと沈んでゆく太陽とともに、毎日を生きる。

わたしたちの祖先が誕生したときから変わらず天にのぼる光を信じ、自分の道しるべとする。ずいぶん原始的ないとなみだと笑うだろうか。でも、少なくとも太陽は、わたしたちが生きているあいだはずっとこの世界に在る。それを希望と呼ばずして、なんと呼ぶのだろう。

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