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初めて見る自分の体のこと

胃カメラをやってきた。初めて。

わたしは非常にこわがりなので、いままで胃カメラをしたことがなかった。でも胃痛があんまり続くので、かかりつけの先生に勧められて検査を受けることにした。検査はこわいが、病気に気がつかないでいるのもこわいので仕方ない。

腕に注射器を刺されたまましばらく椅子でぼんやり待っていると、なんとなく不安になってくる。この感じ、なんだか覚えがある。フランスに行くために一人で乗った飛行機でのこと。いくら時間がたっても目の前のモニターにうつる地図は「ロシア」をさしていた。本当にこれは着くんだろうか…と考え始めたら不安で呼吸が浅くなってしまったのだった(東海道新幹線でなかなか静岡から先に行かないのと同じ現象だ、しらんけど)。

あわてて自分の意識と空間のあいだに焦点をずらす。この注射の中身を体に入れて早く楽にしてほしい。

注射を打ってからはもうあっというまに眠りに落ちた。一瞬、苦しくて目が覚めたが、看護師さんになだめられながらまたすぐに眠ってしまったので、苦痛はほとんどなかった。これを素面でできるひと、本当に勇者だと思う。慣れるものなのだろうか……。

翌日、結果を聞きに病院へ。モニターにはわたしの食道、胃、十二指腸のなかが鮮明にうつっている。ピンク色の臓器の表面にうっすらと浮かぶ毛細血管は、大地に根差す樹木のような、海底につどう珊瑚のような、さっき見てきたクリスマスローズの花脈のような、自分ではないいのちのように思えた。

そういえば、診療台の上で聞いたわたしの心拍はためらうことなく打ち続けていたことを思い出す。わたしの知らぬところで、いのちとして動いているたくさんの臓器の輪郭をはっきりと意識する。それは生まれたての赤子を抱いたときのように、神さまがここにあることをつよく感じる体験なのだった。

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