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うしなわれた書店のこと

実家の近くにある書店が薬局に変わってしまった。地域の文化の要のような存在だった店の閉店は心細い思いがする。この地域にはほかに書店はないのだ。

両親も本を読まなくなったし、本は一部のひとを除いてあまり読まれないものなんだろう。わたしの周りには本を愛するひとが多いから、ときどきそうでない世界と出会ったとき、驚く。

書店だった店の入口に立つ。なぜ、薬局の多くは青白いLEDの蛍光灯をあんなにもたくさん並べるのだろう。体や心が弱っているときに行く場所なのに、影すらも煌々と照らされる店内ではいつのまにか自分の病も、わたしという存在も、真っ白く塗りつぶされてしまうように思う。

入口に立って呼び込みをする社員のひとの、日に焼けて筋肉に恵まれ、白いシャツをまとう身体に気が遠くなる。ここはもう、健康なひとのための場所なのだ。

白という色は、つよい。

白には汚れのなさを主張し、光で満たす力がある。失敗した絵を塗りつぶすこともできるし、形になる前の何かを生まれる前に殺すこともできる。ゆるぎなくうつくしい白は可憐でまぶしく、心を折る力もまたある。

あの青白い蛍光灯を見るたびにわたしは、偏頭痛の予感にさいなまれる。白に誘われた頭痛はその使命を思い出し、鈍い灰色でわたしの視界を塞ぐのだ。

まっすぐ網膜に焼きついた白は、わたしの汚れた部分を照らす光であり、指摘し、糾弾する光でもある。青白く照らされたわたしは、つかれた身体を持つ自分がみすぼらしい生き物になってしまったように感じる。

眠る前、ベッドの上でジュンパ・ラヒリの『べつの言葉で』を何ページか読む。言葉に焦がれ、格闘し続ける作家の言葉を読み、心を打たれるわたしにとって、本は会うことのできない友との出会いをもたらしてくれるもの。

わたしの想像力の限界を打ち砕き、言葉は静かに語りかける。わたしはそんな本という存在に焦がれてしまう。

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