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生産性を向上させるDE&I~減少する労働力を補うためにも積極推進が必要~

明治安田総合研究所 経済調査部 エコノミスト 藤田敬史氏

明治安田総合研究所 経済調査部のエコノミストである藤田敬史氏から調査レポートが届きました。

ポイント
・性別や国籍等の多様性(ダイバーシティ)の機能が十分発揮されるよう包括・受容(インクルージョン)する取組みに加え、一人ひとりの状況や特性に応じて公平(エクイティ)な環境を整備する、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)の推進が重要

・日本では、外国人労働者、障がい者の雇用は増加しているものの、ジェンダー面では、世界的なジェンダー格差指数であるグローバル・ジェンダー・ギャップ指数2024で118位/146ヵ国と低い順位に甘んじている 

DE&Iの推進は生産性の向上等、企業価値を向上させる源泉である。減少する労働力を補うためにも、積極的な取組みが期待される


1.ジェンダーギャップの世界調査、日本は118位でG7中最下位

上場企業などを対象に、2023年3月31日以降に終了する事業年度に係る有価証券報告書に人的資本の情報を開示することが義務化されました。人的資本経営を進めるうえで欠かせない要素の一つが、ダイバーシティ&インクルージョン(Diversity & Inclusion、「D&I」) です。

経済産業省はダイバーシティ経営を「多様な人材を活かし、その能力が最大限発揮できる機会を提供することで、イノベーションを生み出し、価値創造につなげている経営」と定義づけています(図表1)。

また、経済産業省から2020年9月に公表された人的資本経営をどう実践するかを提示した「人材版伊藤レポート2.0」では、ダイバーシティについて「中長期的な企業価値向上のためには、非連続的なイノベーショ ンを生み出すことが重要であり、その原動力となるのは、多様な個人の掛け合わせである。このため経験や感性、価値観、専門性といった知と経験のダイバーシティを積極的に取り込み、具現化していくことが必要となる」と言及しています。

ダイバーシティとは、多様性を意味し、性別、年齢、 国籍、障がいの有無等の外部からでも判断しやすい表層的ダイバーシティや、価値観や性的指向といった外部からだけでは判断しにくい深層的ダイバーシティといった、さまざまな異なる属性を持つ人々が組織のなかで共存している状態をいいます。数値で追える項目をみてみると、まず外国人労働者は増加基調で推移しており、2023年は205万人と対前年で+12.4%の増加となりました(図表 2)。

障がい者の雇用についても年々増加傾向にあり、2023年は64万人、対前年増加率は+4.6%となっています(図表3)。一方、ジェンダー格差は依然大きいままです。スイスの非営利財団世界経済フォーラムが毎年発表している世界におけるジェンダー格差の指数であるグローバル・ジェンダー・ギャップ指数は、各国を対象に、政治・経済・教育・健康の4部門について、男女の間にどれだけの格差が存在しているかをスコア化したものである。2024年6月12日に発表された2024年の同指数では、日本は118位/146ヵ国(2023年: 125 位/146 ヵ国)と低い順位に甘んじており(図表4)、 G7中では最下位となっています(ドイツ7位、イギリス14位、フランス22位、カナダ36位、アメリカ64位、イタリア87位)。

インクルージョンとは、包括性や受容性を意味し、異なる属性を持つ人々を受け入れ、尊重し、一人ひとりの能力が十分に発揮されている状態をいいます。 多様な人材の特性や能力を最大限に活かすためにはインクルージョンが欠かせません。ダイバーシティの推進が多様性のかき集めだけにとどまるのではなく、個々の能力が十分に活かされるよう、多様な人材が活躍できる組織づくりが重要となります。 性別や国籍等の違いを尊重するダイバーシティ(多様性)とそれが十分に機能するインクルージョン(包括・ 受容)、両輪での取組みが重要です。

2. D&IからDE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)へ

DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)は、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の 考え方に「Equity(エクイティ)」を加えたもので、D&Iを進展させた概念として近年広がりつつあります。 Equityとは公平性を意味し、個々の異なる状況や特性に応じて、 適切なサポートを行ない、最大限能力を発揮できる環境を整備することを指します。公平性を理解するためには、Equality(平等)との違いを理解しておく必要があります(図表5)。イラストの左半分は、野球の試合を見るため、幼児、子ども、大人に同じ高さの台が用意されている。 Equality(平等)とは、個々の状況や特性を考慮せず、全員に同じリソースが与えられている状態を指します。結果として、一番右にいる幼児は背が届かず野球を観戦することができていません。一方、イラストの右半分は、幼児や子どもの背の高さにあわせて、必要な高さの台が用意されています。つまり、Equity(公平性)とは、個々の特性や状況にあわせてリソースを与えられている状態を指し、結果として3人ともが野球観戦が出来ています。

DE&I のEquity(公平性)は、D&Iのアプローチを補完する概念で、すべての人に同じリソースを提供するのではなく、一人ひとりの状況や特性に配慮して、公平な環境を整備することで、多様性と包括性・受容性のある組 織にしていこうという考え方です。

3.生産性向上をもたらすDE&I

企業がDE&Iに取り組むメリットとして、生産性の向上、優秀な人材の確保、イノベーションの創出等が挙げられます。

内閣府の「経済財政白書(令和元年版)」によると、多様性が増加した企業においては、増加していない企業と比較して生産性が向上するとの分析が示されています(図表6)。 多様性の高まりと同時に、多様な人材活用の中長期計画・ ビジョンがある企業、または、柔軟な働き方を実施している企業においては生産性が高まる一方、人材の多様性は高まったが、それ以降多様な人材の活躍に向けた取組みを何も行なわなかった場合は逆に生産性が低下することも示されています。ダイバーシティの推進だけにとどまるのではなく、DE&I(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージ ョン)を推進することが有効な理由がデータで示された形となっています。

また、DE&Iの推進により、多様な人材が自身の能力を十分に発揮でき、活躍できる環境ではエンゲイジメントが向上し、優秀な人材の確保にもつながります。そのほか、多様な人材を活用することは、イノベーションの創出にも寄与します。個々の多様性からこれまでになかった新たな発想が生まれ、多様化するニーズにも対応できることが期待されています。

DE&I の推進は、生産性の向上、優秀な人材の確保やイノベーションの創出が期待でき、これらは企業価値の向上につながる源泉です。

4.減少する労働力を補うためにもDE&Iの積極推進を

DE&Iに取り組むべき理由は、前述の前向きな理由のほか、労働力人口の減少という避けられない将来に対応するためでもあります。 「日本の世帯数の将来推計(全国推計)(2024年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、労働力の中核となる15歳から64歳の生産年齢人口は 2020年の7,509 万人から 2050年には5,540万人と約7割の水準まで減少。当研究所が2023年に実施した「働き方に関するアンケート調査」では、「労働力不足問題解決のため何が必要か」との問いに対し、「働き方の多様化の推進」「デジタル化・自動化の推進」のほか、「女性の活躍推進」や 「シルバー人材の活用」といったDE&Iに関連した回答が続いています(図表7)。特に「女性活躍の推進」については、女性の回答割合が相対的に高くなっています。

減少する労働力を補うためには、DE&Iの積極推進を通じて労働者の裾野を広げることが一義的に求められます。 また、前述の当研究所のアンケート調査では、「仕事を選ぶうえで重視することは」との問いに対し、女性では 「勤務時間」、「勤務地」の割合が相対的に高く、特に20~40代で「子育てや介護等との両立のしやすさ」の回答割合が高くなっていることなどをふまえると、子育てや介護等のために、勤務時間などを調整しながら働いている可能性も示唆されます。DE&Iの特にEquity(公平性)を進めることで、1人ひとりの状況や特性に配慮した必要 なサポートを提供することも求められます。

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