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空から見た一面の雪山

 ドバイ乗り継ぎのミラノ行き、早くに買った格安チケットの席はだいぶ後ろだった。周りは妙に親近感のある容姿の、言葉からどうやらシンガポール人の団体客だった。シンガポール航空以外にも乗るのだなあ、とどうでも良いことを思った。
 おしゃべり好きでだらしなく座っているが、気のいい人達のようだった。会話らしい会話はしなかったものの、窓側の私がトイレに立っても嫌な顔ひとつしない。座ったまま少し避けられた隙間を通ると、隣の身体の大きい親子は「あなたは痩せているからこのままで通れるね!」と言ったようだった。
 笑顔に嫌味はまったく無く、こちらも笑みを返した。

 ドバイを出て暫く飛び、スロベニアあたりまで来るとアルプス東端の雪山が広がる。眩しかった窓の外がさらに眩しくなったのでシェードを少し閉めようかと思っていたけれど、周囲の人々が立ち上がって窓から写真を撮っているのでやめた。窓の前をあけるため身体をシートに沈めると、ちょうど顔が壁に隠れる。
 私も眼下にどこまでも広がる雪山は初めて見たのでドキドキしながら写真を撮ったが、彼らにとってはもっと珍しいだろう、シンガポールは雪が降らないに違いないから。
 大人ばかりだったが誰もがみな子どものように眼を輝かせ窓の外を見ては、楽しげに言葉を交わしている。静かに座っていたおじさまさえ横顔に興奮を覗かせていて、なんとも微笑ましい光景だった。

 飛行機は逃げ場がない。座席は決まっているし、歩ける範囲もたかが知れていて、ここから出ることはできない。だからこそお互いに気持ちよく過ごしたいし、自分も一人前の旅客でありたいと思う。

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