２１、デンマーク社会を支える「オープン」

デンマーク社会は、安心感、安心感に支えられた主体性、平等という価値に支えられているとお伝えしてきました。

ここまで読んで、デンマーク社会には政府への信頼があるという点において、日本とは根本的に違うと感じられた方も多いと思います。それは本当にその通りで、デンマークのシステムをそのまま日本に適用しても、同じように上手く機能するとは思えません。

情報公開 ・ わかりやすさ → 信頼

では、デンマークの人びとはなぜ政府を信頼しているのでしょうか？　

その回答が「オープン（情報公開）」です。というわけで、最後に、４つめの価値「オープン（情報公開）」についてお話ししたいと思います。

幸福度調査で幸福度を測定する指標の１つに「主観的に感じる政治や社会における腐敗の無さ」があります。この部分はデンマークと日本で大きく差が出ているところです。「主観的に感じる政治や社会における腐敗の無さ」とは、要するに「政治や社会への信頼感」です。

そして、デンマーク人が政治や社会を信頼できる大きな要因は、運営する側の「オープンさ（情報公開）」にあります。さらにいえば「わかりやすさ」も鍵です。

新型コロナへの明確でわかりやすい対応

たとえば、新型コロナのパンデミックに関して、各国政府や国民の体質が浮き彫りになりました。デンマーク政府はまだ死亡者が１人も出ていない初期段階に徹底的なロックダウンに踏み切りました。もちろん多少のパニックはありましたが、当時４２歳だった女性首相メッテ・フレデリクセンは国民にきちんと向き合ってリーダーシップを発揮しました。そして、「物流は大丈夫だから、買い占めはしないように」という呼びかけは一定の効果を発揮し、買い占めは限定的にしか起こりませんでした。さらに、営業の禁止や自粛要請、集会規制などについても、大半の国民は政府を信頼し、ルールを厳守し、反発はごく一部に留められていました。

新型コロナへのデンマーク政府の対応で感じたことは「誠実で、説明がわかりやすくて、ルールが明確」ということです。フレデリクセン首相は誰にでもわかる言葉で状況を説明し、なぜ規制しなければならないのか、具体的なルールをいつからいつまで適用するのか、明確に伝えていました。また、子ども向けに会見も開き、全国から集まった子どもの質問に対しても、子どもに伝わる方法で説明していました。おかげで、厳しいロックダウンだったにもかかわらず、国民の大半は納得してルールに従っていました。

要は、置かれている状況や持っている情報を国民に誠実にわかりやすく共有すれば、強制力のあるルールを提示しても国民の納得を得られるということです。

また、面白い後日談もあります。2021年6月14日にマスク着用義務が撤廃されると、私が暮らしている街では、その日を境にマスク着用者を見かけなくなったのです。政府を信頼してルールを遵守する国民は、ルールが撤廃されれば自粛をすることもないようです。政府もわかりやすければ、国民もわかりやすい国です。曖昧な指示を出して国民ひとりひとりの判断や自粛に委ねる日本とは、ずいぶん様相が異なるように感じました。

話が新型コロナの話になってしまいましたが、やはりこれはデンマーク政府がオープンにわかりやすく情報公開する好例と言えるでしょう。

ネットでわかりやすく情報公開

また、一般的に、デンマークでは、誰でもインターネットを通じて必要な情報を得ることができ、たいていオンラインで手続きができます。そして、皆が利用するシステムは、たいていシンプルでオシャレなデザインで使い方もわかりやすくなっています。

たとえ同じ情報でも、伝達方法によって受け取られ方は変わってきます。たとえ同じシステムでも、見せ方によって利用者の人数は変わってきます。デンマークでは、民間だけでなく、行政も情報の伝達方法への意識が高く、情報を多くの人にとってわかりやすい形で伝達し、システムを浸透させることに成功しているのです。

時代や状況に合わせてアップデート

ちなみに、デンマーク人は新しいルールやシステムを浸透させるのも速いですが、システムを変えていくのも速いです。法律・ルール・システムがしょっちゅう変わることは少々難点ではあるのですが、それはデンマーク社会が既存のシステムにとらわれず、時代や状況に合わせてフレキシブルに対応している証拠でもあります。

法律・ルール・システムを時代や状況に合わせて柔軟にアップデートしていくという考え方は、デンマークでは当たり前になっています。

開かれた王室

デンマークでは、王室もオープンです。現存している世界最古の王室ともいわれるほど長い歴史をもつ王室ですが、王室も時代に合わせてアップデートされていてモダンで国民に開けています。王族も気軽に外出しますし、王族の活動はインスタグラムでフォローできます。デンマークの政治や王室を見ていると、政治家や王室が国民を信頼し、オープンに情報公開しているからこそ、国民からの信頼を得ているように感じます。