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書評:『良心をもたない人たち』

驚くべき数値である。アメリカの人口の約4%が「反社会性人格障害」ー別名「社会微病質(ソシオパシー)」「精神病質(サイコパシー)」ーだと言われている。二十五人にひとりの割合だ。
ソシオパス、ソシオパスと聞くと、どうしてもハリウッド映画で大ヒットした「羊たちの沈黙」のレクター博士を思い出す。しかし、この本で書かれているのは、身の毛もよだつ殺人鬼の話ではなく、家族や友人など周りの人たちを傷つけても何とも思わないような人のことだ。
『良心をもたない人たち』では、心理セラピストである筆者が二十五年間に渡り、反社会人格障害の患者だけでなく、彼等と接することで精神的にボロボロにされた人たちと接しした経験にもとづいている。筆者は、「良心を持たな人とはどのような特徴・行動をとるのか」だけでなく、「どうすれば彼等からの被害を受けなくて済むか」についても提言している。

サイコパスとはどういう人か

アメリカ精神医学会によると、反社会性人格障害は以下の特徴のうち少なくとも三つが満たされていることが条件とされている。

  1. 社会的規範に適応出来ない

  2. 人をだます、操作する

  3. 衝動的である、計画性がない

  4. カッとしやすい、攻撃的である

  5. 自分や他人の身の安全をまったく考えない

  6. 一貫した無責任さ

  7. ほかの人を傷つけたり、虐待したり、物を盗んだりしたあとで、良心の呵責を感じない

つまり、反社会性人格障害の人は、「自分が道徳や倫理に反した行為や、怠惰、利己的と思える行為を選ぼうとしたとき、それを抑えようとする内的メカニズムが欠けているので、自分の起こした行動の結果に対する責任を持たない」のだ。

サイコパスとふつうの人との心の動きが全く異なっており、彼等の欲望や行動の動機が完全に私達の経験の外にある。その行動を起こさせるのは、

  • 他の人を支配したい、勝ちたいという願望

  • 他の人をおとしめることが、自分の存在意義を得るための唯一の手段と考える

  • 自分以外の人間には関心がない
    という思いである。

なぜ、周りの人はそのような行為を見逃しているのか。それはサイコパスと言われる人は、独特の対人スキルがある。具体的には、

  • 危険な状況や選択を好むので、接した人は「ちょっと危険な匂いがする、スリルがある」と魅了されてしまう。

  • 良心を書いた人間はだれが善良でだまされやすいか、即座に見分ける

  • 演技力がある。空涙や泣き落としなどを使って感情表現ができる

  • 社会的、職業的役割が人にどのように作用するのかを知っており、それを巧みに使う

  • 人を煽ったり、同情心に訴えたりするのがいまい

なぜサイコパスが生まれるか

筆者は、サイコパスの大脳皮質では、神経生物学的部分と行動的部分を結ぶ重要な鎖の一つが、機能変調を起こしている可能性があるという。
一卵性双生児と二卵性双生児の比較研究から、人の計測可能な性格特徴は、35から50%は先天的(遺伝)という。これはサイコパス的な性格にもあてはまる。50%は遺伝によるものだが、残りの50%はなにかは分かっていないという。

サイコパスの出現度合いは、文化圏によって異なっており、東南アジアの国々、特に日本と中国ではサイコパシーの割合が低いと言わている。
一方、アメリカでは逆の傾向が指摘されている。1991年にアメリカの国立衛生研究所が行った調査によると、アメリカの若者の間では反社会性人格障害の割合が15年で二倍近くに増えている。
個人主義を価値の中心に置くアメリカでは、自分本位の態度を容認、推奨してきた。一方で、アジアは集団本位の社会のため、他者との感情の絆を重んじている。

サイコパスに対処するには

サイコパスは、見た目はふつうの人なので区別できない。悪いことに、人というのは良心を欠いた行動を取られても、自分の勘違いと考えてしまう傾向がある。どうすれば、彼等からの攻撃を交わすことができるだろうか。筆者による「サイコパスに対処する13のルール」は、

  1. 世の中には良心のない人がいると理解する

  2. 自分の直感と相手の肩書が伝えるものとの間で判断が分かれたら直感に従う

  3. 「三回の原則」(三回嘘が重なったら嘘つきの証拠)を用いる

  4. 権威を疑う

  5. 調子のいい言葉やお世辞を疑う人に注意する

  6. 恐怖心と尊敬を取り違えない。必要な時は尊敬の意味を自分に問い直す

  7. 相手が仕掛けたゲームに加わらない

  8. サイコパスだと思ったら、一切接触しない

  9. 人に同情しやすい自分の性格に疑問を持つ

  10. 相手を治そうとしない。自ら助かりたいと望んでいる人だけを助ける

  11. どんな理由であれ、サイコパスが素顔を隠す手伝いは絶対しない(「誰にも言わないでほしい」と涙ながらに訴えてくるのは要注意)

  12. 自分の心を守る

  13. 幸せに生きること

つまり、サイコパスとの接触は避けるに越したことはないが、サイコパスは野放しにされてよいのだろうか。筆者によると、サイコパスは常に刺激を求めので、人との接点がなくなると、薬物やアルコールに依存してしまい、結局は自滅することが多い。1990年に「米国医師会ジャーナル」での調査によると、サイコパスの75%がアルコール依存症で、50%は薬物常習者だった。

最後に

この本で紹介されている人たちは、程度の差こそあれ、わたしたちの周りにいると思う。「なぜ、あんな行動が取れるのか」と疑問を抱いていたが、この本を読んで、あるいに良心を持たない人というのは、われわれとは別の種類の人だということが分かった。見分けが難しいし、いったん相手の術中にはまってしまうと、なかなか抜け出せないだろう。特に、本書の中の事例で出ていたが、親や兄弟がサイコパスであると、対処ルールにあるように回避の姿勢で望むのは本当に難しいだろう。
彼等に取り込まれないためにも、まずは自分の直感を頼りにするしかない。

『良心をもたない人たち』マーサ・スタウト (著), 木村 博江 (翻訳) 、草思社

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