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<書評>『Classic Rugby Clangers(古典的なラグビーの騒音=ラグビーの面白いエピソード)』


Classic Rugby Clangers


『Classic Rugby Clangers』 David Mortimer著 2003年 Robson Books

 1871年から2002年までのラグビーの歴史を振り返って、もっとも残念だったエピソードを集めたもの。いかにもイギリスのコアなラグビーファンが喜ぶような内容の本。

 最初のラグビーとサッカーが分化したときの説明が面白い。ラグビーはラグビー校のルールが基になったが、サッカーはイートン校のルールが基になったそうだ。だから、現在のサッカーを「イートン」式フットボールと呼称する可能性もあったようだ。

 また、未分化状態のフットボールは、サッカーのように手でボールを持って走ることが禁じられていなかったので、ウィリアム・ウェッブ・エリスのプレーは反則ではなかったそうだ。まあ、この辺りはエリス伝説を無理やりに作っているので、いろいろなところで無理が生じてしまう。

(参考:私が以前書いたラグビーの起源について)

 上記のエピソードを読んだ後、だんだんと時代が遡って、私も知っているようなゲームの話題が出てきた。そうすると、著者がイングランド人なので、もう露骨にイングランド贔屓の話が多くなった。つまり、本当はイングランドがトライしていた(またはトライを阻止した)のを、南半球のレフェリーが認定しなかったため、負けてしまったといった愚痴が多くなっている。

 もうこの手のイングランド人のいうことは、自分たち北半球のラグビーが正義かつ正統であり、オールブラックスを筆頭にした南半球のラグビーは、乱暴でラグビーの伝統を阻害するようなプレーばかりだという偏見に満ちている。

 そのもっとも悪意と偏見に満ちた表現は、ラグビー史上最高の伝説となったジョナ・ロムーが、1995年RWC準決勝でイングランド相手に夢のような素晴らしいトライを量産し、ラグビー界に新たなそして偉大なヒーローが出現したゲームを、ただ「イングランドラグビーの悲劇」と表現し、さらに、「イングランドラグビーが新しいものに生まれ変わった劇的な瞬間」と称えていることに現れている。これに対して私は、もはや唖然とするしかなかった。

 このラグビー史上最も有名といっても決して過言でない試合は、イングランドFBマイク・キャットを「ロムーがカーペットのように踏み越えてトライをした」有名なシーンに象徴されている。それは、何よりもロムーをラグビー史上の伝説にした偉大な瞬間であり、その時のイングランドは、まさに「脇役」、「かませ犬」、「ピエロ」役以外のなにものでもなかった。
(ウィキペディアからの引用:

“The first try in the English match occurred after Lomu received a pass behind him, beat two defenders and then, after a stumble, ran straight over the top of Mike Catt.[3] This reduced one New Zealand commentator, Keith Quinn, to gasps.[21]
After the game, England captain Will Carling said: "He is a freak and the sooner he goes away the better".[22] His first score was voted the try of the tournament.[
(グーグル翻訳を基に部分修正)
 「イングランドとの(準決勝の)試合の最初のトライは、ロムーが身体の後ろでパスを受け取り、2人のディフェンダーを打ち負かした後、つまずきながら、マイク・キャットの上をまっすぐ走った後にトライした。[3]この破壊力あるプレーに、ニュージーランドの(著名な)コメンテーターであるキース・クインは、息が止まりそうになったという。
試合後、イングランドのキャプテンであるウィル・カーリングは、「彼(ロム―)は化け物で、すぐにもっと良い選手になるだろう」と語った。彼(ロム―)の最初のスコアは、(ワールドカップ)トーナメントのベストトライに選ばれた。」

 イングランドのサッカーWCでは、1966年に「疑惑のゴール」で優勝した一回のみに終わっている(ウィキペディアからの引用:https://ja.wikipedia.org/wiki/1966_FIFA%E3%83%AF%E3%83%BC%E3%83%AB%E3%83%89%E3%82%AB%E3%83%83%E3%83%97#%E5%A4%96%E9%83%A8%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%82%AF

 「延長前半10分過ぎにジェフ・ハーストがシュートを放ち、クロスバーに当たりほぼ真下に跳ね返った後、西ドイツの選手によってクリアされた。ゴールを確認できなかった主審は線審に確認を求め、線審は得点が決まったと伝えたため、イングランドが3対2とリードした。西ドイツ側はこの判定に猛然と抗議したが覆らなかった。サッカーで得点が認められるためには、ボールがゴールラインを完全に越える必要があり、当時から実際にゴールが決まったかどうか、激しい議論の的になった。スローモーションも多元中継も無かった当時の技術では、一般の視聴者だけでなく専門家であっても得点を判断するのは不可能であった。1995年オックスフォード大学の研究者が、当時最新のコンピュータを用いた解析を行い、ボールは線上にあり、得点は認められるべきではなかったと発表した。」

 イングランドはラグビーWCでも、2003年大会で延長戦の末、ジョニー・ウィルキンソンのDGでどうにか勝ち越した一回しかない。イングランドがサッカーとラグビーの発祥地として自負したい気持ちは良くわかるが、その後の発展は、貴族趣味の余計なプライドが邪魔して停滞していることがよくわかる。

 本書の感想やこうした過去の経緯から考えてみると、スポーツの健全な発展には健全な評論家が必要なのかも知れないと思った次第。(注:一応「健全な精神と健全な肉体」というローマ時代の諺を意識しています。)

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