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<物語翻訳>「小さな王子(抜粋)」

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1.初めに

 本当はフランス語から訳せれば良いのだけど,フランス語の原本はないし,私のフランス語の知識は翻訳できるほどのものはないし(ジュテーム(愛してます),ヌキテパ(電話を切らずにお待ちくだい),バタン(立ち去れ)等を知っているぐらい・・・)なので,少しは知識もあるし,さらにマイアミにいたときに購入した英語版が手元にあったので,これを元に自分の言葉で翻訳してみた。

 ちょっと自信持って言えば,日本で「星の王子様」と意訳された,英語原題「The Little Prince(小さな王子)」は,フランスで出版されるより先の1943年,著者のアントワーヌ・サンテグジュペリが地中海の飛行機事故で亡くなる1年前に,ニューヨークで英語版(とフランス語版)が出版されたのが,世に出た最初だった。だから,フランス語版も重要だけど,この本を世界に広めたのは,むしろこの英語版だったと言えるから,私が英語版から翻訳したことも邪道とは言えないと思う。

 そして,この子供向けというよりも(日本では,子供向けの読み物として,ひらがなを多用した翻訳になっていることに強い違和感がある),すさんでしまった子供の心を忘れてしまった大人が読むべきこの本の白眉は,実は著者の実体験を元にしたと想像できる,バラ=愛人との別れについての部分と,そして,著者の人生哲学が開陳された,狐と王子の会話だと思っている。

 それで,この2ヶ所を抜粋して御紹介したい。もちろん,全文を公表した場合は,著作権法に抵触するから(注:ネットで調べたところによれば,原著者が亡くなってから70年が経過しているので,大丈夫なようだが),用心して避けているのだけど。まあ,これは著者の言うところの「大人の考え」でもある。

2.バラとの別れ

 小さな王子は,少し残念な気持ちになりがら,バオバブの最後の若木を引き抜いた。王子は,もう自分がこの惑星に戻ることはないとわかっていた。それで,この最後の朝に行った慣れ親しんだ仕事は,とても愛おしいものに思えた。そして,花に最後の水をあげた。そして花にガラスの丸い鉢を被せた。泣きそうになっていることを感じた。
「さよなら」と王子は花に言った。
でも,彼女は答えなかった。
「さよなら」と王子はまた言った。
すると,花は咳き込んだ。でも,彼女が風邪を引いたわけではなかった。
「私はとても馬鹿だったわ」と彼女は王子に言った。そして最後に「私を許してね,そして幸せになってね...」
 王子は,非難されなかったことに驚いた。そして,うろたえて立ち尽くした。ガラスの丸い鉢は,風が通るのを止めている。王子には,この静かな優しさが良くわからなかった。
「もちろん,私はあなたを愛していたわ」と花は王子に言った。「ずっとこのことをあなたがわからなかったのは,私の過ちだったのよ。でも,そんなことはどうでもいいわ。でも,あなたも,そうあなたも私と同じくらいに馬鹿だったのよ。幸せになってね...。ガラスの丸い鉢を外して,私にはもういらないわ」
「でも,風が...」
「私の風邪はそんなたいしたことじゃないの。寒い夜の空気は,私を良くしてくれるわ。私は花なのよ」
「でも,動物たちが...」
「そうね,もし私が,蝶が来てくれることを望むのなら,2匹か3匹の芋虫がいることは我慢しなくちゃね。でも,蝶はいらないし,芋虫もそうなら,誰が私を見てくれるの?あなたは遠くに行ってしまう...そして大きな動物たちが...でも私は,少しも怖くないわ,私には棘があるから」
 そして,彼女は淑やかに4つの棘を見せた。そしてこう言った。
「もうぐずぐずしないで,行くことを決めたのだから。早く行って!」
 彼女は,王子が彼女のために泣くことを望まなかった。彼女はかくも誇り高い花だったのだ...。

3.狐との会話

 しかし,狐はあるアイディアが浮かんだ。
「私の人生は,とても単調です」と狐は言った。「私は鶏を捕まえます。人間は私を捕まえます。すべての鶏はこのようであり,すべての人間はこのようなものです。そしてこの関係では,私は小さな役割です。しかし,もしあなたが私を飼い慣らしたら,私の人生にまるで太陽が昇ってくるようなものになります。私は,あなたの足音が他の人とは異なっていることがわかるでしょう。他の人の足音は,私を早く土の中に隠れるようにさせます。あなたが呼ぶ声は,まるで音楽のように聞こえ,私を隠れ家から出します。そしてほら,はるか向こうに穀物畑が見えますか?私はパンを食べません。穀類は私の役に立ちません。穀物畑は,私には何の意味もありません。それは悲しいことです。でもあなたには金色の髪があります。あなたが私を飼い慣らしたら,どれほど素晴らしいか想像してみてください。穀類は同じ金色なので,私にあなたのことを思わせます。そして,小麦を揺らす風の音が好きになるのです...」
 狐は小さな王子をじっと見た。長い時間が経った。
「どうぞ私を飼い慣らしてください!」と狐は言った。
「僕も,本当にそう願っている」と小さな王子は繰り返した。「でも,僕には十分な時間がない。僕には友達が見つかったけど,理解するためには多くのことがある」
「理解することはひとつだけ,飼い慣らすということです」と狐は答えた。「人間はすべてを理解するための時間がありません。彼らは既に作られたものを店で買います。でも,私が友達を買おうとしても,そんな店はどこにもありません。だから,人間の友達はどこにもいないのです。もしあなたが私を友達にしたいなら,飼い慣らしてください...」
「君を僕が飼い慣らすには,何をすればいいの?」と小さな王子は尋ねた。
「あなたは忍耐強くならねばなりません」と狐は答えた。「まず初めに,あなたは私と少し距離を置いて座ってください,そう,今やっているように,草の上に。私は,あなたの姿が視界から外れていますから,あなたは何も言わないでください。言葉は誤解の元になりますから。そして,毎日,私との距離を少しずつ縮めていってください...」
 次の日,小さな王子が戻ってきた。
「私は,同じ時間に戻ってくるほうがより良いと思いました」と狐は言った。「たとえば,あなたが午後4時に来るとします。そうすると私は午後3時には嬉しくなります。私は,1時間の間に,どんどんと嬉しさが増していきます。午後4時になったとき,私は心配のあまり飛び跳ねています。私があなたを見たとき,どんなに嬉しい気持ちになることでしょうか!でも,あなたがいつ来るかわからない場合は,私は自分の気持ちがあなたを歓迎するようになるのが,何時になるのかわかりません...決まったことを決まったようにやるのです...」
「決まったことって,何?」と小さな王子は尋ねた。
「よく見捨てられてしまうような行動です」と狐は答えた。
「人々は,時間が変わる度に,また日が変わる度に,違うことをします。そこに規則があります。たとえば,私を狙うハンターです。彼らは毎週木曜に村の娘たちとダンスをします。そのため,私にとって木曜は素晴らしい日になります!ブドウ畑をいくらでも遠くまで歩くことができます。でも,ハンターがいつでもダンスをするようになれば,毎日が他の日と同じになってしまうので,私にはもうバケーションを楽しむことができません」

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