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夜空に泳ぐチョコレートグラミー

夜空に泳ぐチョコレートグラミー
著:町田そのこ

全5作からなる連作短編集でほんとに面白い。

以下ネタバレ

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1作目は「カメルーンの青い魚」
両親の顔を知らないさきこという女性とその唯一の男である児童養護施設出身のりゅうちゃんの話。小さな町で住むことを覚えてしまったさきこと小さな町では収まりきらず、遠くへ出かけてはふらっと戻ることを繰り返すよ様なりゅうちゃん。このストーリーがすごく切ない。それだけではなく、なんて言えばわからないが単純ではないなにか仕掛け?というのかわからないけど、それがまたいい。

2作目は「夜空に泳ぐチョコレートグラミー」
啓太という男の子と晴子という女の子の話で、晴子は体が小さく気も弱い。両親ではなく体の大きい祖母に育てられいつも祖母の後ろにいるような子。その環境もあってかいじめられていたのだが、ある日を堺に「孵化」する。1人で強くなるという決意をもとに変化していく。啓太はシングルマザーで、母親のために新聞配達のバイトをするような優しくて強い子。それぞれに事情を抱えた中学生の強い姿に大人も心を打たれる。展望台のシーンはとても美しい。

3作目は「波間に浮かぶイエロー」
突然自殺してしまった恋人への思いを辿って街に住む沙世と沙世が働くカフェ?(なんだろう。軽食や?)のオーナーの芙美。そして、芙美と過去に交わした約束を信じて店に訪れた環という3人のストーリーを描いている。
この物語は読んでいくにつれて深くそして広くなっていくのが分かる作品。芙美がかつて共同で経営していた友人との約束。その友人が過去に交わした約束。とかとか。ほっこりしつつも切なく悲しい物語。ちなみに芙美は「おんこ」

4作目は「溺れるスイミー」
製菓会社の工場で働く唯子のストーリーを描いた作品。唯子の父親はまだ唯子が小さいときに特に喧嘩したとかではなく、ここではないどこかに行きたい衝動に駆られ、どこかに行っては繰り返して母親を裏切り、離婚そしてなくなった。母親は共生できないとこうなるという教えを何度も唯子に教えるのだが、唯子は父親の血を継いでいて何度も家を出てしまう。そこで父親と同じように転がるようにしか生きられない宇崎くんという男性に出会い、一緒に生きようと迫られる。母親の思いと自分の衝動に葛藤する唯子に心苦しくなる一作。一つの場所にしか生きられない人と転々としか生きられない人がいるが、どっちが愚かとかそんなものはないけど、人間って不思議な生き物だと感じた。

5作目は「海になる」
3度の流産と1度の死産を経験した桜子。そんな桜子を欠陥品と罵り、暴行を繰り返す夫。ここらへんのシーンはほんとに辛くなる。夫まじで許せない。一番辛いのって本人に決まってるのになんでそんな言葉が出てくるのか。信じられない。って本に対して怒ってた。(笑)
そんな桜子がどん底に落ちる度に偶然現れる清音という男性。清音は愛した妻を病気で亡くした過去を持つ。
こんな2人が絶望から希望に満ちた人生を過ごす過程を素晴らしく描いている作品。

この作品は、作品一つ一つ全くストーリーが違うのにちょっとずつ繋がっている。嫌らしいくらいに、、、だから途中途中読み返したりしちゃうのが町田そのこさんの術中にハマってしまってる。
解説に書いていたけれど、この5作品冒頭文が素晴らしく巧いのだそう。疎いので読みながら気づかなかったが、言われてみればそうだ。こんなにも読んでしまう理由はこれだったのかと、、、、

非常におすすめ!!

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