4. アプリの検討(1)- AppExchange体験記

前回はビジネスプラン合意として、レベニューシェアの説明とビジネスプランの協議方法などを書かせていただきました。今回は「SaaSの生命線」であるアプリの検討についてです。

SaaSというからには基本となるプロダクトがあり、それがアプリと呼ばれるものです。このアプリを
・いつ思いついて
・どう開発し
・どう販売していき
・どう成長させていくか
がSaaSの醍醐味でもあります。これに会社の成長(黎明期から成長期、成熟期へ)が絡むので、ほぼ同じもの(アプリ、体験、会社)がないのは想像できるかと思います。

いつ思いつくか

こちらは私があまり話すことはできません。なぜならアプリのアイデアがあるから相談に来ていただいていたからです。ここではアイデアがアプリになった1つの例をご紹介させてください。

AppExchangeのなかで初期に「最も」と言ってよいくらい有名だったのは「陣屋コネクト」です。神奈川県鶴巻温泉になる「元湯陣屋」の宮崎富夫社長(当時)がSalesforceを使って開発した旅館管理システムをAppExchangeのOEM(Salesforce基盤と一緒に販売するモデル、第1回を参照のこと)で開発し、それを全国の旅館へ販売していました。
ご紹介動画はこちら

ここでの陣屋コネクトの役割は「旅館の経営改革」です。「借金10億」などとメディアにも出演される今の女将である宮崎知子様は明るくお話されていますが、旅館を引き継いだ当初は本当に大変だったのだと思います。「紙での経営」と「女将の頭の中にある顧客情報」から、「ITによる顧客管理と見える化」には多くの困難な道のりがありました(リンク先などを参照ください)。自動車会社のエンジニアだった富夫社長のアイデアと、それを支えるIT、そして皆をまとめる知子さんあっての仕組みであり、それが赤字経営から脱却しての改革に成功したため、そのノウハウを全国の旅館へと拡げていくときにAppExchangeに参加されました。

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当初は全国の旅館にキャンピングカーで訪問され、課題点を整理して、陣屋コネクトに当てはめていく。そしてSalesforce基盤の一番のメリットである「カスタマイズ」(注1)も実施していく。みなが使えるようになるまでキャンピングカーで寝泊まりして、活用が始まれば、また次へと向かっていく。アプリの販売ではなく、コンサルの領域にまで入っての商談だったといいます。キャンピングカーを使ったのは
「旅館の収入は部屋である。その部屋を販売に来ている自分が使用してしまっては申し訳ない。」
という理由からだそうで、こういう想いが人と現場を変えていく、と改めて思ったものです。

その後、「日本の伝統とITの融合」ということで、歴代の経済産業大臣の方が元湯陣屋を訪れ、「こういうことをもっとやりたい」と大臣自らはおっしゃいましたが、全国からアイデアを募り、それを実現するような国家的なプログラムまではたどり着いていません。やはり「改革していく想い」を持つ方はそう簡単には見つからないのです。
(下記写真は厨房での情報表示画面。大きなスクリーンに、配膳の進み具合などが表示される。)

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Salesforceから働きかけるときは、オンプレミスからSalesforce基盤への変更を提案しているようなときで、すでにアプリがありました。そのアプリについて
「クラウドになるとバージョン管理が楽になり、ユーザーの利用状況がわかります。」
「Salesforce基盤ならChatterやダッシュボードも使えるので、現製品の機能を拡張できます」(後述)
などとお話させていただいたのですが、第2回に掲載したように、うまくはいきませんでした。我々が、その「パートナー様のソフトウェア製品」に関する「想い」や「理解」が足りなかったのだと思うし、この部分は超えられないものでもあるのかもしれないと思いました。

一方、ご相談いただいた方々には、我々も何か付加価値を提供しないといけないので、できるだけアプリを洗練されたものにできるよう、いろいろとご提案させていただいていました。それは毎日Salesforceを使っていたからこそ、毎日いろんなアプリや様々な事例を勉強していたからこそ、のものでなくてはいけないと思っていました。

とはいえ、ご相談いただいたサービスは、個々のリーダーの
「社会のここの部分を変えたい」
「ある業界の困っていることがあるのに誰も手出ししないから自分で解決して将来には残したくない」
と言ったような、やはり熱い想いがあるものが多かったです。ご自身の体験のなかで「これ」と決めたものを大きく育てられるようにお手伝いさせていただくのは、とても幸せなことでした。

我々がアイデアでよく加えていたのは
・Salesforceの持っているデータと「かけ算」
そのアプリがSalesforce上に入ったら、Salesforceの持っているデータと「かけ算」できる。「ダッシュボードでどう表現するか?」はSalesforceだから簡単に考えられることでもありました。例えば既出のJob Scienceは採用アプリです。希望者の登録から面接の記録、面談者とその評価が記録されています。その採用時の評価とその後の配属での評価、営業成績は意外と結びついていないものです。これを結びつけて、採用者へフィードバックするループを作れば採用活動が改善され、社員満足度があがり、定着が進む。これは単に採用アプリで効率をあげる以上の効果になります。

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・Chatterによるコラボレーション
こちらもOEMのオブジェクト(データの単位;例えば採用者リスト)単位にコメントを残していくことができます。このコラボレーション機能はSalesforceをあまり使っていないパートナー候補の方には馴染みがないため、ほぼ企画に入ってこないものでした。でも、機能を説明して、自社のサービスの一助にできれば、新しいストーリーをアプリに追加し、付加価値が増すことになります。(こちらによい説明ページがありました。)
チームスピリット様の例でもSNSの記述があります。(下図)

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どう開発するか

Salesforceを基盤に選んでいただくとき、よく課題になるのが、「どこにスキルのある人がいるか」です。急成長しているエコシステムなので、どこにいっても人が足りません。
このため、アメリカでは開発パートナー制度ができていて、3社ほどに100名クラスのSalesforceエンジニアがいて、開発する部分を支援、あるいはアウトソースしてしまう、というものです。ただ、こちらの仕組みはSalesforce連携の簡単なものを期間決めて実施する(2ヶ月半ほどで製品をリリースというお約束で機能は簡略化されて定義されている)というものなので、ビジネス参入には便利ですが、拡大・伸張となるとちょっと違ったのです。

日本でも同様のことをやろうとしてみたのですが、上記のような背景とともに
・単にSalesforceと連携してもお客様にとっての新しい価値がなければビジネスとして伸びない
・SaaSのように、開発したものを繰り返して改善していくには開発を外部依存しすぎるのはよくない
・ユーザーの意見をきちんと聞ける製品担当を置いて、バージョンアップなどを企画していく

の3点を満たすことが難しいとして、見送ることにしました。その一方で、開発支援をしていただける会社として数社を紹介するようにしました。その中で日本らしい細やかなやり方をしていただいているのがco-meeting社の「顧問Salesforceプログラマー」ではないかと思います。リンク先の記事に詳細は記載されていますが、SaaS会社の社員のような形で製品開発に参加いただけます。freee社が利用されたこちらの記事は当時お問い合わせが増えるきっかけともなりました。関係者のみなさまにより新しいアイデアが生まれ、それにより新しいサービスと価値が提供されるようになる。エコシステムの神髄とも思います。

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さて、
・どう販売していき
・どう成長させていくか
ですが、少し長くなってきたので、こちらは次回へと継続させていただきたいと思います。お楽しみに。

注1)カスタマイズ
Salesforce基盤はカスタマイズを許容することができるのが大きな特徴。カスタマイズを実施しても、その情報(定義やデータ)は保管され、将来基盤がバージョンアップしたとしても、それが保持される。よくスマホを切り替えたとき、何かが動かなくなるとか、起きることがあるが、Salesforceはリリース3ヶ月前からパートナーに「確認テスト」の依頼をしており、事前チェックがなされた上で、リリースされている。この機能は他の基盤にはない、大きな特徴である。

App(アップ)とApplication(アプリケーション)は違う
Salesforce本社では「Application(アプリケーション)」と呼ぶことを嫌がっていて、「App (アップ)と言うこと」とガイドがでていました。日本では、アプリケーションを「適用業務」と言っていた時代もあります。ほぼ死語になっていて、昭和な感じで古くさいですよね?そんな感覚が英語のApplicationで、Appを使って、Cool (かっこいい)でいよう、ということです。いかにもアメリカ西海岸的な発想で、私は好きです。日本では「アプリ」という単語が普及してきたので、そのままアプリとして使っています。
単語といえば、1年だけ「ISV (Independent Software Vendor)パートナーでは格好わるい(古くさいということか)」ということで、AppExchangeプログラムの変更を加えたときにパートナー様の名称を App Innovation Partner (AIP)と変えたことがあります。評判良くなかったらすぐに撤回するのもベンチャーっぽく、翌年からリーダーも変わって、このAIPはいつの間にかどこかに消えました(笑) 
日本ではAIPという単語の紹介について様子を見ていたのですが、普及活動をしなくて本当によかったです。ときどき米国の動きより遅くするものがありますが、この名称変更などもそういった「様子見」にあたりました。



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