「初めての人生の歩き方」(有原ときみとぼくの日記) 第40房:初めての同窓会

 2日の夜に中学校の同窓会があった。
 卒業してから18年。
 その間に同じ高校に行った人もいるが、ほとんどが連絡すら取らなかった人ばかりで、名簿を見せてもらっても顔がぼんやりとしか出てこない人も数人いた。
 有原くんは行こうかどうか迷っていた。
 怖かった。
 中学のときにあまりいい思い出がなかった。
 思春期ど真ん中。
 いじめられていたわけではないが、いじめている怖い人はいた。親とも友人ともうまくいかずに、自分が何者かも分からなかった当時、彼は今でも思い出すたびに苦くなるような思い出を量産していた。
 中二病。
 恐ろしいのは当時ではなく、当時の思い出をいまだに引きずっていることだろう。

 思い出に未来はない。

 だからこそ彼は決断した。

 彼の通っていた小学校は丘の上にあった。同窓会の会場はその丘の下にあった。
 ちょうど通学路。彼は緊張を紛らわすために少し早めに家を出て歩いた。
 どうせなら楽しもう。
 と、何回も唱えながら、何百回も通ったであろう道を歩いた。

 小学校の頃に見ていた景色は息が止まりそうなほど光に満ちていた。

 当時は大きかった道も、今では肩を縮めてしまうぐらいに狭く感じる。
 大人になってはじめて歩いたかもしれない子供の頃の道。
 もう二度と戻れないということの素晴らしさに彼は胸を打たれた。
 
 子供の道は光だ。
 そして今から歩く道も、更に年を重ねた自分が見たら、きっと……。

 小学校に行く前に、今は空き地だがもともと警察署があった場所の裏に。
 ここには名前も顔も忘れたけど、確か友達が住んでいて、彼は何回か遊びにきたことがあった。
 
 小さなアパートの一室。
 その友達は銀色のコインを持っていた。
 彼はそれを気づかれないようにポケットに忍ばせた。
 その帰り道。
 別の友達にそれを指摘され、彼は平常を装って盗んだコインを川に投げ入れた。
 彼の心を彼が殺した初めての思い出だった。

 そこには古びた誰も住んでいないアパートが。
 風が冷たかった。
 それでも彼は友達の顔も名前も思い出せなかった。
 ちょうどようやく夕焼けが広がっていた。
 あのコインは今も真夜中に輝くときがある。

 眩しさはときに人を狂わせる。
 光。
 受け止めきれないときだってある。
 彼らはみな生きているのだから。

 誰かが上から石を投げて問題に一時期問題になった歩道橋を渡って、小学校へ。
 その途中、懐かしい顔が。
 ああ、なんだ、忘れてないじゃないか。
 小学校のときから一緒だった旧友。
 彼は足を止めた。
 心臓が痛むほど激しく鳴っている。
 向こうも彼に気がついたようで足をとめた。
 その瞬間、瞬間なのか永遠なのか。
 久しぶりの挨拶に彼らは握手をした。予想以上に距離のない雰囲気に彼は驚いた。
 距離があったのは時間と思い出だけであって、本当にぼくたちは個別の世界を生きてきたのだと彼は思った。

 世界は一つではなかったのだ、と。

 そして彼らは一旦別れた。向こうはそのまま会場へ。有原くんは一人で小学校へ向かった。
「一緒に行こう」
 とお互いに言わなかったのは優しさだ。
 辺りはもう暗い。
 夕日が海へと落ちたんだ。

 彼は登った。
 坂道を。

 二宮金次郎の像がいまだにあることに驚いて、彼はとりあえず会釈をした。
 田舎の学校。
 塀も門もなにもなく、彼は堂々と中に入った。
 正面玄関、プール、校庭、彼の世界の全てだった大きな宇宙はもう手の届かない小さな星へ。

 中庭。
 池の中の鯉。
 暗くなった小学校の自分たちの誰もいない教室。
 なくなったうさぎ小屋。
 縄跳びでケンカした体育館前の広場。

 彼はぐるっと周り、最後に中庭の池をジャンプして飛び越えると、鼻で笑いながら涙を拭いた。

 彼の中の同窓会はここで一旦終わりを迎えた。

 丘を降りるときに学校から禁止されていた裏道を歩く。ここで彼は高校のときにタバコをふかしていたことがある。
 そのときの見つかったらどうしようという恐怖心に似た気持ちでついに会場へ。
 その前に緊張しすぎて吐きそうになる。
 彼女に電話。
 している最中に同級生と出くわす。
 慌てて電話を切り、深呼吸をする前にそのままの流れで会場へ。
 それでも勇気が出ない彼は部屋に入る前にトイレに。
 大きく息を吸って吐いて吸って、よし、とチャックを上げて鏡を覗く。
 33歳の顔はあの頃のように緊張していた。
 少しずつ大人になることへの緊張感。

 いざ。

 会場には独特の空気が流れていた。
 彼は一瞬で見回した。
 胸がドキドキしている。
 お金を払い、誘導されるがままに席について、乾杯をして話をして……。

 ある人は言う。
 初恋の人とは会いたくない。
 そのときの思い出が美しいから。
 と。
 
 ある人は言う。
 初恋の人とまた会いたい。
 そのときの思い出が美しいから。
 と。

 彼がどう思ったのかはまだここでは伏しておくことにする。

 ただ彼にもう後悔はない。
 人生は過去を土台にして常に前を向いている。

 同窓会は本当に怖かった。
 けれど本当に行ってよかったと思う。
 もちろんいいことばかりではないし、完璧な人間なんているわけもない。失敗だってあるし、二日酔いにもなるし、嫌な思い出だって残った。

 それでも行って良かったと思う。
 勇気はいらない。
 勇気は持つものだから。
 この次の開催も絶対に行きたい。
 そしてもっとたくさんの人に来てほしいと思う。
 心から。

 この場を借りて幹事をしてくれた方、久しぶりの再開を喜んでくれた方、酔っぱらいに付き合ってくれた方、すべての方々にお礼を申し上げます。
 本当にありがとうございました。

 また次回があれば宜しくお願い致します。

 同窓会の話なのに同窓会の話をあまり書かなかったのは、まだ受け止めきれていないからだと思う。
 
 詳しくはいつか直接本人に聞いてあげてください。
 きっと喜んで答えますよ。
 少し目が泳ぐかもしれませんが。

 人生には必ず出会いがある。
 その出会いを終わらすのも続かすのも復活させるのも、多分自分一人の力ではどうしようもないんだと思う。
 人には人の世界がある。
 その世界ではみんなが主人公だ。
 その世界ではぼくたちは脇役だ。
 どんな物語を子どもたちに語りたいのか、それによって進む道が通学路から枝分かれした。
 
 この道を選んできてよかった。
 苦しいときもあったけど、本当によかった。
 デコボコで転けそうな道だったけど、信じて歩いてきてよかった。
 途中でまさかきみの道と合流するなんて思いもよらなかったよ。
 この道から新しい道が生まれるなんて誇りに思うよ。
 そうか、だから地球は丸いんだ。
 この道に名前をつけるとしたら、そうだ。

 絆。
 
 またには振り返って眺めるのもいいかもしれないけど、道はまだまだ続くんだ。

 歩こう。

 大丈夫。

 自分のペースでいいから。

 歩いて歩いて、もう歩けないと立ち止まったとき、

 もう一度振り返って見てほしい。

 きみの歩いてきた道の上で、

 きっと誰かが手をふっているから。

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