「アンティークおじさん」
わたしが密かにそう呼んでいる、あるアンティークショップのおじちゃん。
今日は撮影で使う小物を探しに少しだけ久しぶりにお店に行った。
おじちゃんに会うつもりで近況報告の会話を頭の中で想像しながらお店についた。
お店に立っていたのは息子さんだった。
話には何度も聞いてた息子さんが、優しい表情で「いらっしゃいませ」と声をかけてくれた。
あれ、今日はおじちゃん居ないんですか?とわたしは尋ねた。
その時にほんの少しだけ曇った彼の表情が、わたしの心をザワつかせた。
「胃癌になっちゃったんです」
ーーー。
なんだかその一言とその顔を見ただけで、早期発見とかじゃないんだと悟った。
え、うそ、そんなわけない。
信じられない。
それで、え、どんな状況なんですか?
気を使わなければいけないことは分かったけど、聞かずにはいられなかった。
まさか死なないですよね?!
と率直に聞いてしまいそうなほど。。
多分、動揺がめちゃくちゃ顔に出てしまっていたと思う。マスクをしていたからマシだったかな。
「でも親父の希望で治療は試みることになったんですよね」
「前向きにめっちゃ色んなこと試してます、ちゃんぽんになっちゃって大丈夫?!ってほど笑」
息子さんは笑顔を浮かべながら沢山話してくれた。
わたしも少しは笑ったのかもしれない。
もう何を探しに来たのかも分からなくなるくらい、ザワザワが止まらなくなった。
そのまま結構長い時間店の中をグルグルして、
おじちゃんという人間そのものの魅力が詰まったこの店は、やっぱりおじちゃんが戻ってこないとダメだよ、と涙を堪えながらただ歩き回った。
さらにグルグルしながら、せっせと動いて商品を拭いてる息子さんのことを考えながら、少し気持ちを落ち着かせた。
ひとつのランプが目に入った。
今まで見たことのない謎の形状。
モミの木かな?
重い。ガラスだ。
よく見ると、なんかビニールテープで無理矢理電球を付けてある。
これは、元々ランプじゃ無かったものをおじちゃんがランプに改造したっぽいぞ。
わたしには分かるのだ。
こういうことをするのがおじちゃんだ。
買う。
いくらかわからんが!買う。
そんな気持ちで息子さんに購入の意思を伝えると、よく見た末、
「あれ、これなんか変な液体入ってる笑
ちょっと売れないですね笑」
よくよく見ると、モミの木の幹の部分に茶色い水が入ってる笑。
よく見て分析したわたし。
「いや、これは多分、分解して、この液体出して組み立て直せば素敵になるので、連れて帰ります」
息子さんは、「え、本当に買うんですか?」と笑ってた。
丁寧に新聞紙に巻いて、リュックに入れて、支払いを済ませてバイクにまたがる。
大事な割れものを背中に背負って、なんとなく清々した気持ちで帰宅し、そのまま夢中で丁寧に分解、
すごい厳重に何枚もグルグル巻きにされたビニールテープを剥がしていくと、
謎の液体に直面。
なんか臭う!お酒っぽい。
あー、、ブランデーとかのボトルなんだなこれ。
謎の茶色い液体を捨てて洗って、
組み立て直しながら、
想像した。
きっとおじちゃんはこの瓶が面白い形だから、何かと組み合わせて、ランプにしたらかっこいいと思って、アイデアに突き動かされてせっせと手を動かしたんだろうな。。
(いつも、凡人には思いつかない組み合わせで素敵なものが作り上げられて販売されてるのを見てきたからこそ想像できたんだと思う)
そう思いながら、あっという間に仕上げて、ライトをつけて、ひととおりの角度から眺めて、なんとも言えない気持ちになった。
こうなると、おじちゃんに自慢したい気持ちになってきた。
連絡してみよう。
きっと元気に返事もくれるはず。
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