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ネナシグサ

根無し草(ねなしぐさ) の意味

1 地中に根を張らず、水に浮いている草。浮き草。

2 浮き草のように漂って定まらない物事や、確かなよりどころのない生活のたとえ。「行方も知らぬ―の旅」


カナダの暮らしが大好きで、自らこの暮らしを選んだ。
その事実は変わりない。
そしてこれからもきっと、ここにいる。


けれど、日本に一時帰国するたびに、その決意が少し揺らぐ。
歳を重ねると尚更だ。

4年ぶりに日本の土を踏み、4週間ほど滞在したのちにカナダに戻ってきた。

今回は初めて、娘と2人の女旅。

私の夫は、パワフルでなかなか個性の強い人なので、一緒にいるとどうしても彼のペースに巻き込まれてしまうのだけれど、今回は私のペースでいいもありがたった。

思春期に差し掛かる前の娘とも、好きなことやきれいだなと思うことが似ていて、2人でゆっくり日本を満喫できたなと思う。

そして何より、家族。

そばにいればいいことばかりではないのはわかる。
私たちは離れているから、いいとこどりばかりしている。
それも理解しているつもりだ。

だけれども、4年離れていても、会えばすぐに繋がれる、家族だけのあの感覚。

家族との接点が日常にはない暮らしをしている私には、家族との再会は、いろんな過去を一瞬にして乗り越えるだけの温かさがあって、考えるだけで今も喉が震えて、涙が出そうになる。

そう、ホームシックだ。
4○歳にもなって、ホームシックだ。

政治的にも、地学的にも、エネルギー資源的にも疑問が残り、その上災害大国の日本。
さらに海外から見ていると、最近の日本の国力は落ちているように映る。
日本に帰った最初の1週間は久しぶりのカルチャーショックに見舞われ、6月下旬のあの猛暑ウィークに当たってしまったこともあって、日本に対して悪態をついたこともあった。

なのに。

やっぱり、日本は私の祖国なのだ。

やっぱり、大好きなのだ。

日本に暮らしていたら、当たり前すぎで気づかないかもしれないけれど、日本の野菜や果物はものすごくエネルギーがある。
トマトやきゅうりの色の濃さ。
丁寧に育てられた果物。
甘さ、フレッシュさ、値段、どれをとっても素晴らしい。
お米も一粒ずつ噛み締めたくなるほど美味しい。
さすが火山の国。

人の丁寧さ。
昔はその丁寧さがロボットみたいで嫌だったのに、フレンドリーだけどドライな接客スタイルに慣れた今ではとてもありがたく感じた。

街のきれいさ。
物や食べ物の安さ(これはいいことばかりではないけれど)。
公共交通機関が便利でオンタイムなこと。

そして、都市部を離れてわかる日本の自然の多さ。
広葉樹が織りなす里山の自然美。
夜はカエル、早朝は鳥の大合唱。
日本という土地が持つ生命力。

若い時にはあまり響かなかったことが、響く歳になったなあ。
それか、長年の海外生活に少し疲れてきたのかもしれないな。

足掛け20年。
人生の約半分をカナダで暮らしていることになり、このままいけば日本で暮らしていた年数をあっという間に越していく。

しかし、カナダが祖国か?と聞かれると「否」だ。
カナダはホームだけれど祖国にはなりえない。
20年も経っているくせに、どこか、自分は他所者なのだ、という思いが消えることはない。

もともと社交的でもないし、文化背景や思いの伝え方が異なることもあって、当たり障りのない人間関係を好んでいくうちに、知らず知らず心の中の空洞が広がっているようにも思う(それはそれでいいのだけど)。
その上、英語もそこそこ、日本語は退化する一方となれば、自分のアイデンティティを問う場面ににしばしば直面するようにもなる。

このアイデンティティ問題というのはなかなか厄介なのだ。
そもそも、私みたいに考えすぎる人間は、自分が何者かということを定義できないことで足元がぐらついて、40代にもなって「自分探し」を終えられない。
「自分探し」を終えられないので、なかなか自分に自信が持てない(開き直ることは多少覚えたけれど)。困る。厄介だ。

そんな自分を例えるなら、根なし草、いやネナシグサ。

根を張っているように見えて、実は浅い。
野菜で言ったら、さやえんどうだ。
背を高くし、たわわに実をつけているように見えるが実は根っこが浅い。
これが私の正体だ。

さて。今回、思いの外日本に順応している自分を観察して気づいたことがある。

いつか、日本に帰るのもありだなあ。

なーんだ、そんなこと、と思うかもしれない。
しかし、我が夫は、日本に本帰国なんてありえないという人で、私もそっちに気持ちが寄っていたので、この思いはなんだか新鮮だった。

「ない」を「ある」にするのは、簡単なようで簡単でない時がある。

しかし、「ある」にしてしまえば、一瞬にして心が軽くなる。

その時が来るまで、またカナダで頑張ろうと歯を食いしばった、ホームシックな夏の夜なのでした。





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