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爆発しても、散った残骸は美しいと信じている

爆弾みたいだなと思ったんだ

空に上がる火や色鮮やかな花、点滅するサーチライト、爆弾みたいなものの寄せ集め。百日紅の花が爆弾みたいだと語る人を知る前の話、散る花を爆弾みたいだと思った。

理由は分からない。ただ、爆発して散った物の名残が地面に落ちていると思った。実際花は爆発しないし、本当の意味で爆発しているのは空に上がった火花や何光年も先で既に死んだ星くらいなもので。けれど地面に散ったそれを、咲き誇り花盛りを迎えているそれより好きだったのは、どれだけ汚れても物の本質は変わらないと気づいていたからなのかもしれない。

知らんけど。

とりあえず、日常の寄せ集めの中で爆弾みたいだと思った景色があった。それが金木犀だ。誕生花とはよく言ったもので、生まれた日を彩ってくれた花は桜よりもずっと、私の人生に生きていたのかもしれない。

香りが充満する季節が来る度、もうすぐ誕生日だと思い出した。深緑の生垣、石鹸みたいな丸みのある小さな橙の花。隙間なく密集し咲き誇るその色が好きでもないのに恋しかった時間がある。多分、私は昔から季節に生きていた。

オレンジ色が好きじゃない。強いて言えば、人参カラー。あ、人参は全然食べられます。いつもありがとう農家さん。私は人参のグラッセが好きです。甘ければ甘いほど良いとまで思っています。

ベータカロチンばりばりのオレンジと、そこから伸びる真緑の色彩が嫌いだった。深い緑が嫌いだ。青みの入っていない、ただの緑と赤と黄色で構成されたばりばりのオレンジ。よく分からないが昔からこの色が嫌いだった。親でも殺されたんかというくらい嫌いだった。多分絶望的に似合わないからではないかと気づいたのは、世の中にパーソナルカラーなるものが出てきたころである。

顔や髪のタイプで似合う色があるとインターネットの海で広がったそれらを目にした時、ベータカロチンばりばりオレンジと真緑は秋の色だった。秋の色と称される全てと私は絶望的に相性が悪かった。まぁ子供ながらにこの色は似合わないから嫌いと察していたのだろう。秋の色と次席で春の色を私は好まなかった。

話を戻そう。ばりばりオレンジと真緑が嫌いだった私にとって、金木犀とはまさしく人参と同じカラーだった。けれどよく見たら人参カラーと異なっている事に気づいた。

金木犀の花は橙だけど白が混じっている。輪郭は光に当たり淡い黄色混じりの白を放ち、葉は角度によって青緑だったり陽に透けた葉脈は黄緑に変わっていた。

咲き始めてからわずか二週間ほど、馬鹿みたいに香りを放ち人々の記憶に残るのに、一瞬で雨に流されたら消える様が、まるで爆弾みたいだと思った。

泥水に浸かり匂いすら感じず、汚れた橙が縁石の溝に溜まっているのを見た。爆弾だ。爆発して散った残骸。咲き誇っていた時は愛でられたのに、爆発して落ちた先で愛してくれる人はいない。今だってそう、平然と踏まれ忘れ去られていく。

まさに一瞬の輝き。

本当は落ちてからも綺麗なのに。香らずとも、地面を彩ったそれは美しいのに。でもそれに気づき足を止める人間はどれだけいるだろうか。人間なんぞ爆発する瞬間くらいしか興味のない生き物だ。分からなくもないが。

桜は散り際が美しいと言うけれど、全て散った後の地面を見て泥にまみれても存在する薄桃を愛する人は少ないだろう。それと同じようなもんである。そんなもんでいいとも思えるが、私は何故かいつも足を止めそれを見てしまう。何なら咲き誇っていた時間よりも美しいと思ってしまう。

真っ黒のスニーカーにへばりついた泥と小さな橙に、美を見出してしまう。白い靴裏にへばりついた薄桃を、取りたくなくなってしまう。そんな時、世界は一層美しさを増す気がした。

爆発した星が見えなくなったら、きっと最初は寂しがるのだろうがいつしか当たり前になって会った事すら忘れるのだろう。人間だってそう。今私が死んで悲しんでくれる人がいたとしても、時間が経てば記憶は薄れやがて存在すらも忘れる。そういう摂理は季節によく似ている。

移り変わる季節は生まれては死ぬのを繰り返しているみたいだ。太陽が昇り沈むのもそう、星の瞬きも、空の色も、花も、人間も、何もかも。ずっと、生死を繰り返しているように見える。

不意に夕焼けが差し込んでスニーカーについた橙を照らした。色彩はまた変わる。燃えて灰になりそうなその花に、そういえば最近紅葉見てないなと思い歩みを進めた。真っ黄色の銀杏は見るんだけど、紅葉は目に入っていない気がするなんて考えながら帰路についた時、金木犀はやっぱり爆弾だと一人結論付けた。

いつか私の人生が終わる時、爆弾みたいに美しい残り香と色彩を放てるだろうかと思いながら書き綴る今、どでかいくしゃみをして飲んでいたココアの飛沫が白いパーカーを汚したので、やっぱり綺麗に爆発は出来ないと察した。

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