140字小説/「君の耳に夏」
手を引かれて家を出た。空には入道雲、真っ青な空はどこまでも遠くに続いているようだった。歩道を歩けば街路樹が影を作るが風が吹けば無くなってしまう心許ない影だった。それでも私を押し込むかのようにそちらに行かせ、自分は日の当たる場所を歩く君の優しさが感じられて目を細めた。
君に会ってから何度目の夏を共に過ごしただろうか。永遠を連れ添うにはまだ短く、青春を過ごすにはとても長い時間を共有してきた。それでも、この夏は過去よりもずっと異例なものである事はお互いに理解出来た。
道路を走る