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推しが不祥事を起こしても応援し続けられる?

「今度コンサートで東京行くから予定空けといて」

珍しく母から連絡がきた。

私は家族と滅多に連絡を取らない。実家に帰省する前や両親の誕生日、母の日、父の日に一言二言メッセージを送るくらいだ。母も以前、「便りの無いのは良い便り」なんて言葉を笑いながら話していた。

そんな母からの連絡。私が福島から上京して初めてのことだった。

一体、誰のコンサートだろう。

久しぶりに母と再会

当日、集合時間に駅へ向かうと、丁度母も到着したようで改札口からヒョコっと現れた。早歩きでやってきた母を改めて見ると、私の方が少し背が高い。学生の頃、同じくらいの身長だったことを思い出して懐かしいような、どこか寂しいような気持ちになった。

お昼時だったこともあり、母から近くのお店で昼食をとろうと言われたが、私は少し困ってしまう。家の近くにある商店街にほとんど入ったことがないから母を案内できないのだ。

「2年も住んでるんでしょ?お店開拓とかしてみなさいよ」

呆れた様子の母を横目にここはチェーン店、ここは営業時間外…と探していたら雰囲気の良さそうなカフェを見つけた。ひとまず安心だ。

入ってみると、開店したばかりだったので人がいなかった。値段も良さそう。母はおしゃれに盛り付けられたランチプレートを見て、少し上機嫌に「パパに見せてあげよう」と言いながら写真を撮っていた。私も便乗して、目の前に届いたキッシュを記念に撮る。

大人になっても心配をかけてしまう娘

食事中、母から仕事や普段の生活について聞かれ、最近の出来事をかいつまんで話した。私は今、ライターを生業に生活している。両親には以前どんな記事を執筆しているかを話しており、サイトに掲載されている記事を読んでくれてるから説明がだいぶ楽だ。

「まあ楽しく仕事できているならよかったわ。あと…病院行きなさいね」

母は包帯を巻いている私の手を見て言った。

「ああ…これ?」と言いながら、苦笑いしてお茶を濁す。子どもの頃からアトピーに悩まされ、今でも症状が収まっては酷くなっての繰り返しが続いているが、最近になって一気に悪化したのだ。

「あれ効くみたいよ、かんざしドリンク」

かんざしドリンク?初めて聞いたのでネットで検索したけどヒットしなかった。

「もしかして、さんざしドリンク?」

「あー!そうそれ、さんざしドリンク(笑)」

どうりで検索しても出てこないわけだ、なぜか可笑しくて二人で吹き出して笑ってしまう。母は昔からどこからかアトピーに効く情報を聞きつけて試してみる常だった。漢方を嫌がりながら飲んだり、よくわからないままベッドに寝かされて身体に電気を流してみたり…今は話の種になるのである意味いい思い出だ。

今も昔と変わらず心配をかけてしまうのは申し訳ないなと思いながら、なんだか嬉しくもある。大人になったと言っても、ただ年齢を重ねて少し背が伸びたくらいで、中身は20歳くらいで止まってる。実家を出て両親と離れたことで、まだ親に甘えたい子供心が垣間見えてしまう。

母のファン歴の長さに圧倒される

立川駅に着いた。

駅周辺は人でごった返していて、休日だったことを思い知る。近くのお店を散策したり、カフェでデザートを食べたりしていたら、コンサートの開場時間になっていた。

「もう開場時間だから向かうけど、この後どうするの?」

ここで帰るのも良かったけど、母と別れるのに名残惜しさもあったので着いていくことにした。

「今回は誰のコンサートなの?」

「槇原敬之」

だいぶ前に薬物の件で逮捕されていた人だ。しかも2度目。ニュースで彼の逮捕を知った時、真っ先に母のことを考えた。私が小さい頃から車でこちらが飽きるほど楽曲を流し続けていたし、度々ファンクラブの会報が自宅に届いていたり、テレビに出演するとわかれば欠かさず録画していたほどだ、相当なショックを受けて興味が薄れてしまったのではないかとばかり思っていたので、名前を聞いてビックリする。

「今回、コンサート行くのってどんな心境なの?」

「一体どんな面して出てくるのか見ようと思って」

その清々しいくらいストレートな言葉に声を出して笑ってしまった。何ともないように振る舞っている表情の裏に全てを感じ取ることはできなかったけど、もしかしたら母は「ああ、またか」と推しを受け入れることで、自分の気持ちにけりをつける決心をしたのかもしれない。

「ファンになってもう30年よ?あなたが生まれる前から好きなんだから(笑)」

「30年!?そんなに前から好きだったんだ…」

30年。その言葉を聞いて、私は母のように長い年月かけて好きな芸能人を応援し続けることはできるだろうかと考えた。幸か不幸か、私にはまだ世間に批判されるほど大きな不祥事を起こした芸能人はいない。

芸能業界にかかわらず、女性関係、薬物、いじめといった問題は日常生活に腐るほどある。週刊誌や知人の暴露に悩まされ、不安と隣り合わせで生きていかなければいけないあの世界で生きている推しに「どうか関わっていませんように」と願わずにはいられない。

私が一番不安なのは、「推しが不祥事を起こしても応援し続けられるのか」ということ。意地になって目の前の問題に蓋をして好きで居続ける気はないが、推しを受け入れる度量がどこまであるのかが自分にもわからなかった。

今はただ余計なことを考えずに推しを応援していきたいと思う。

コンサート会場までの道を歩いて気づいたこと

コンサート会場までの一本道を歩いていて気づいたことがあった。不祥事を起こしても応援し続けるファンの数が多いこと。女性グループ、男2人、年配の夫婦まで、みんなコンサートTシャツを着て向かっていた。

みんなコンサート会場に着いたら、来た思い出を残すために写真を撮っている。こんなにも多くのファンに愛され続けるなんて、芸能人にとってこんな幸せなことはない。愛されることが当たり前になってほしくはないなと思った。

今回のコンサートは復帰後初だからすごく人気なんだと話してくれた母。

「初日は発売開始1分で売り切れたんだから!本当にチケット取るの大変だったわ!」

そう話している時の顔はとても嬉しそうだった。厳しい言葉を言っておきながらやっぱり好きなことには変わりないんだなと思う。

私も母みたいにずっと推しを応援し続けていきたい。

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