見出し画像

観光業における黒船来襲と事業承継

私は、もともと観光の専門ではないですが、観光業のDXについてイベントの登壇依頼などが増えています。これは、観光の世界が一昨年までのこの世の春と言われるくらいの活況な状態からコロナ禍で一気に奈落の底に落ちてしまったということが背景にあります。

観光業がDXに真剣に取り組まないといけない理由はいくつかあります。一つはコロナ禍になる前から慢性的な人手不足と関係する方々の給与水準が低いということ、もう一つはオーバーホスピタリティと呼ばれるくらい、かけている手間に対してサービスの提供価格の設定が安いということがあります。また、もともとの観光のスタイル(自治体・公的団体や事業者が企画した観光スタイルを軸とした事前準備、景勝地の見学やテーマパーク訪問のための移動、地域の特産品などのお土産を購入など)を磨きに磨いてきた結果、人が観光に求める欲求についての変化が読めなくなってきたということがあります。特に本格的なデジタル社会になり、可処分所得や可処分時間などの変化が激しく、多くの人は旅行に使えるお金や時間が減ってきているということも注目しないといけないと感じています。日本の観光産業は、旅行に多くのお金が使える富裕層、時間の自由度が高い富裕層に対しての対応が遅れているだけなく、磨きに磨いてきた従来の観光のスタイルを欲していたターゲットが高齢化してきているということと、スマートフォンなどのモバイル端末の利用料が個人の可処分所得を奪い、アプリから提供される各種サービスが可処分時間を侵食しているという事実に着目しないといけないのではないかと考えています。そんな話を以前、オンラインでの観光DXイベントで話をさせていただきました。

このオンラインイベントのご縁で、観光業界の発展に大きな貢献をされてこられてたやまとごころの村山さんとは懇意にさせてもらっています。

コロナ禍の前くらいまで、日本の観光地はオーバーツーリズムと呼ばれているくらい活況で、一瞬立ち止まって観光産業を取り巻く環境が大きく変化しているということを考えられる状態ではありませんでした。デジタル社会になり観光の定義が変わってきていることと、観光という体験がパーソナライズされて個人の特性に合わせてカスタマイズされ、タイムリーに提案・提供され始めているということ気づくのが遅れてしまったのではないかと感じています。

インバウンド観光なども新興国を中心とした昭和の頃の日本人を彷彿させる経済発展の勢いで成り立っていたので、昭和の頃に作られた観光スタイルでも現場の頑張りで対応してきたという話なのかもしれません。その結果、業務効率化に使われるIT化にも対応することができないという状態にもなっています。現場の高齢化による横文字アレルギーと過去の成功体験を磨きに磨いた結果、業界全体が変われなくなったというのもあるのかもしれません。この問題は、観光産業だけの話ではなく失われた30年と言われるように、変われない(高度経済成長という奇跡を改善活動で磨きに磨いた)期間が多くの人たちの思考を停止させ、想像力を欠如させてしまったのかもしれないと感じています。そのようなことを考えながら、昨日は Clubhouseのイベントで話をさせていただきました。

非常にバランスよく座談会全体をモデレートしてくれるやまとごころの村山さん、それから観光庁の中でも産業全体が抱える本質的な課題を認識してユニークな施策を提案されている観光地域振興部観光資源課 新コンテンツ開発推進室室長の中谷さんとのセッションでした。中谷さんは行政の立場なので、観光業界の中小事業者も含めて事業承継なども意識した形で丁寧にお話をされるのが印象的でした。私はと言うと、データ駆動型観光に近い黒船が来襲している中で日本の観光産業全体がグローバルなDXのうねりに飲み込まれそうになっているということに警鐘を鳴らすという役割だったと思います。観光体験のリッチ化とパーソナライズ化の取り組みは、デジタル社会では人間の頑張りだけでは難しく、モバイル端末で自動収集される行動データやキャッシュレスなどから紐づく購入履歴などを組み合わせてAIなどで即座に分析され旅マエの個人にリコメンドという形で提供されるというイメージになります。自分でもインターネット検索などで調べることはできますし、そちらが楽しいですが、可処分時間が減ってきている今、個人の嗜好特性を高度に分析してリコメンドされた方が楽だというのが人間の性ではないかと思います。実際にネットショップでのショッピングは高度なデータ分析に基づいたリコメンドや広告が普通になっているのと、テレビなども決められた番組表(配信時間と番組内容)に合わせるのではなく、Netflixに代表されるように個人の視聴履歴や興味関心に合わせて限られた番組選択画面の中に最適配置されます。莫大な数のオンデマンド番組コンテンツを限られた画角の中に最適配置するというのも、表示順(上位有利)、表示場所(左有利)だけでなく、表示のパネルも複数準備して選択される傾向にあるパネルを表示、個人の嗜好に合わせてパネル選択という懲りようです。ここまでくると人間の頑張りでは対抗することは不可能です。それが、旅行などの世界にも到来しています。実際に、以下のような動きも出てきています。

GAFA が異業種分野への進出を加速(大和総研)
https://www.dir.co.jp/report/research/policy-analysis/human-society/20190226_020656.pdf

大和総研のレポートにも書かれていますが、パーソナルデータを収集しまくったGAFAは以前より異業種参入に積極的です。パーソナルデータの収集のために豊富な資金でフリーミアム的なサービスも提供して、一気に他業種に参入するということは誰しもが理解していることで、観光業界などはその一丁目一番地になります。その産業構造全体の変革・変容がデジタル社会におけるトランスフォーメーションであり、観光業DXという話になると、そこを指摘しないといけないと考えています。この視点で話をすると、旅行業者個々の事情の話ではなくなります。たしかに、今の日本の観光事業者の方々がデジタル社会に適合するには、まだまだ数年というか、数年経っても適合できないというのが事実かもしれません。そこを昨日のClubhouseのイベントでも指摘されました。ただ、DXはビジネスモデルを変えないという前提ではないのと、ビジネスプロセスの効率化のためのIT化の話でもないということを理解してもらわないと「そんなに難しいことを言われても私たちには無理」という話で終わってしまいます。

膨大なデータを集めに集めて世界を大変革しようとしているGAFAと、大きくはスタイルを変えずになんとかオペレーションの効率化と生み出した時間でホスピタリティを充実させようとしている日本の観光産業という構図になるのかもしれませんが、少なくとも人間の温かいホスピタリティで勝負するということになると富裕層向けに絞り込むという選択と集中の戦略が必要になると感じています。

GAFA+マイクロソフトの時価総額は、観光産業だけでなく日本の東証一部上場企業の全体の時価総額を上回っています。

高度にパーソナライズされたエンターテイメントを提案するGAFAが作る世界観が旅行業界に与える影響はとても大きいものになります。人の意識が変わってくるので、旅行というエンターテイメント分野での位置付けとスタイルも変わってきます。その影響を受けるボリュームゾーンが富裕層以外ということになると、日本の観光産業全体が存続の危機になります。

これが、DX(デジタルトランスフォーメーション)の話であり、従来の観光業を継続するためのIT(業務効率化)とは少し異なる話になります。

DXが浸透していくと、インバウンド観光などを考える中で言われてきたシーンごとの適切プロモーションの姿も変わってくるのではないかと思います。

旅マエ(観光情報を収集する、訪問先を選択する、宿泊先を決める、訪問先の観光名所や名物、ショッピング・グルメスポットを検索する)

旅ナカ(訪問先の観光地を巡りイベントやアクティビティを体験する、ショッピングやグルメを楽しむ、ホテルや旅館などの施設に泊まる、現地のコミュニティと交流する)

旅アト(家族や知人に旅の話をする、お土産を渡す、SNSなどで旅の記録を投稿する)

観光情報の収集あたりからパーソナルデータを使われたリコメンドに変わってくると、旅全体が膨大なデータから導き出されたものに支配されます。AIなどを使って高度に分析されたダイナミックプライシングの導入、Google Hotel Adsなどに代表されるような地図(Google Map)とメタサーチ機能の併用での施設予約の最適化など、面白味は無いですが富裕層以外はやはり高度なリコメンドと楽な手配には惹かれます。

ビジネスの基本は、環境の変化に順応することと、お金を払ってくれるお客さまの潜在的なニーズに合わせるということになります。

まだまだ勉強不足ですが、最終的にはサスティナブルな観光事業とするためには、環境に優しい観光の提案をしていかないといけません。また、観光を楽しませていただく観光客側もレスポンシブルツーリズムと言われるように、自然や環境に優しい形で旅行を楽しませていただくという形になっていくと考えています。

デジタルは冷たいものではなく、私たちが住まわせてもらっている地球環境に優しい産業をつくっていくための必須の温かいツールではないかと考えています。人口減少が著しい日本でも持続可能な観光の姿とは、自然や環境に優しい観光の姿とは、富裕層から事業継続が可能なサポートを受けながら多くの人が人生の楽しみを感じることができる観光コンテンツとはなど、一見、矛盾するようなことを実現するには、今まで無かった道具(デジタルツール)を使っていくしかないとも感じています。

乱文、失礼しました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?