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ジブリ映画「君たちはどう生きるか」のテーマを予想してみる


ジブリ映画「君たちはどう生きるか」の公開が間近になりましたが、内容がほぼ明かされていないことが話題になっています。

現在明らかにされているのは、同名小説「君たちはどう生きるか」が原作ではないものの、何らかのモチーフにされていることです。

子供の頃に読んだ小説「君たちはどう生きるか」を改めて読み返し、ジブリ映画「君たちはどう生きるか」のテーマについて予想してみました。

※こちらのnoteは、作品の公開前に、私が勝手な予想で書いたものですので、ご了承ください。

どのような内容の小説か?

小説「君たちはどう生きるか」は、旧制中学に通う「コペル君」(本名 本田潤一)が、友だちとの身近な体験を通じて、叔父さんと対話しながら「人間の生き方」について考えていく物語です。

物語の前半は、コペル君が叔父さんから様々なことを教えてもらう展開がメインですが、後半に進むにつれて、コペル君自身も、人間の生き方について深く考察し、「自分の生き方」を見出そうとしていきます。

この小説の特長は、単なる教訓話ではなく、哲学的な発想を大切にしていることです。叔父さんから聞いたことを通じて、コペル君自身が、自分の身近な体験から自分なりに答えを見つけていくスタンスが大切にされています。

「人間分子」

コペル君は、身近な体験から、人と人とはそれぞれが繋がって生きていることを発見し、そのつながりがまるで化学の分子のようだと、「人間分子」と名づけます。

コペル君の発見に対し、叔父さんは、「それは経済学で生産関係と言われているものだよ」と教えてあげます。そのうえで、このような発想を少年にして自ら導いたコペル君のことを称賛します。

「生産関係」は、マルクス経済学における重要な概念です。1人1人はお互いに様々なものを生み出して、どこかでつながっています。経済は、支配階級によって支えられているのではなく、生産を担う1人1人がつながることによって形成されているという考え方です。

ただし、小説「君たちはどう生きるか」は、マルクス経済学の解説書ではなく、1人1人のつながり(人間分子)をさらに大きな次元でとらえ、「1人1人が様々な立場でつながって形成される社会で、自分がどう生きていけばよいのか」をテーマにしています。

叔父さんは、このような社会の中で、おごり高ぶったり、卑屈になったりすることなく、立派な人間になることの大切さを、コペル君に伝えます。それを受けて、コペル君が、「すべての人がお互いによい友だちであるような世の中になるように、そして、自分が(そのような世の中になるために)役立つ人になれるように」という思いをノートに記して、物語は締めくくられます。

コペル君が発見した「人間分子」の考え方は、今回のジブリ作品においても重要なテーマになるのではないかと思います。

宮崎駿監督は、安保闘争全盛期に学生時代を過ごし、当時の学生運動のあり方に対して批判的な考えを持っていたといわれています。そのような考えの背景には、コペル君のような「人間分子」の発想から外れて、暴力によって思想を実現しようとするやり方に対し、懐疑的な思いがあったからかもしれません。

今回の映画の中では、宮崎駿監督が、学生当時に感じ、その後に様々な作品でそれを表現する中で培ってきた思いが、何らかのメッセージとして込められるのではないかと予想しました。

社会のために何を生んだか

叔父さんは、コペル君に対して、何も生産しない消費者として生きていることの自覚を促すとともに、そのような立場でも生み出せるものがあると伝えています。そして、叔父さんは、あえてその答えをコペル君に伝えず、自分で答えを見つけてほしいと伝えています。

このような叔父さんのアドバイスに対し、コペル君は、物語の最後で次のような答えを出しています。

・・・僕には、いま何か生産しようと思っても、なんにもできません。しかし、僕は、いい人間になることはできます。自分がいい人間になって、いい人間を一人この世の中に生み出すことは、僕にでもできるのです。

同小説「十、春の朝」より引用

宮崎駿監督は、これまで、多数のヒット作を世に出してきました。ただ、もしかすると、これまで自分がしてきたことを「生産」といってよいのか、疑問を覚えているのかもしれません。

映画制作は、人を楽しませたり、感動させたりしますが、生活の糧を生み出す行為ではありません。そのような意味では、叔父さんのいう「生産」では必ずしもありません。

また、宮崎駿監督は、多数のヒット作品を生み出すために、多数のスタッフに負担を課してきた側面があります。このような立場を回顧して、自らのことを(生産されたものを消費する)支配階級者のようだと感じているかもしれません。

このような非「生産」行為を続けてきた自分の人生を振り返って、社会のために何かを生み出す生き方ができていたか、今回の映画を通じて回顧しようとしているのではないかと予想しました。

宮崎駿監督の盟友であった故・高畑勲は、数々の赤字作品を世に出して、ジブリの経営を圧迫してきたことで有名です。経済的合理性だけを見れば、明らかに非生産者として位置づけられます。

ただ、高畑勲の作品は、数多くの人の心を動かし、高く評価されてきました。高畑勲の生き様は、まさに、非生産者の立場から世の中にたくさんのものを生み出してきた代表といえるかもしれません。

そのように捉えると、宮崎駿監督が「君たちはどう生きるか」をテーマに選んだ背景には、高畑勲に対する敬意の念があるのかもしれません。

まとめ

これらの考察から、今回の映画では、次のようなことがテーマになっているのではないかと予想しました。

  • 学生運動全盛期の時代に自分が感じた思い

  • 自分が社会のためにこれまで何を生み出してきたかの回顧

  • 故・高畑勲に対して宛てた敬意

仮に、このようなテーマが描かれているとすれば、今回の映画は、まさに、宮崎駿監督の人生そのものを振り返る「自伝」といえます。

おそらく、今回の映画が、「宮崎駿監督の伝記もの」として正面から自分を描いたものでないことは、容易に想像できます。もしかすると、作品を一度観ただけでは、私の予想が当たっていたかどうか分からないかもしれません。

ただ、もしかすると背景にこんなテーマが描かれているのかも?と想像しながら作品に触れれば、また違った楽しみ方ができるように思います。

【余談】弁護士としてどう生きるか

大人になってから小説を読み返すことで、改めて「君たちはどう生きるか」の奥深さを感じました。

弁護士の仕事も、生活の糧になるものを何か生産するものではありません。基本的には形に残らない仕事が多く、何を生み出しているか評価しづらい仕事です。

もっとも、「人間分子」同士で生まれる様々なトラブルを解決して、関係性を修復することは、まさに、弁護士の仕事の本質といえます。

小説を読み返して、私自身にも、叔父さんから「弁護士としてどう生きるか」という課題を与えられたような気がしました。

〜おわり〜

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