見出し画像

#6 泊鉈の歴史と特徴

2021.07.26

初めに

こんにちは、ささです!前回は、鍛冶屋の歴史について紹介しました。

今回は、泊鉈の歴史や特徴、またその製造方法について紹介していきます。
引き続き、朝日町で唯一の作り手である、大久保中秋さん(以下、大久保さん)のお話とともにお送りします!大久保さんの経歴や想いについては、次回の記事で紹介します。

取材には、大久保製作所さんにご協力いただき、一部写真は朝日町観光協会の上澤聖子さんからご提供いただきました。


<1章 泊鉈の歴史>

『朝日町誌文化編』(p. 313、※1)によると、「製品が広く流通した背景には、一つは羽入・蛭谷・笹川からの出稼木樵人夫(※2)及び隧道(※3)工事に従事する泊人夫の全国的移動に随伴した用具の広がりがあったと考えられ」ていたことから、朝日町出身者の泊鉈愛用者の口コミで、どんどんその魅力が県外へと伝わっていったことがわかります。

当時、朝日町の蛭谷や羽生地区の人たちは、山に近いことから林業に携わる方が多かったです。なので朝日町の街中に住む人達も、山へ出稼ぎに行っていました。林業に関わる人々の間で使いやすいと評判で、泊鉈の需要が高まりました。

この全国的に有名となった泊鉈は、カンジャ町に集まっていた鍛冶屋が、毎日腕を競って生産していたため、当時は同業者がたくさんいました。文献が少なく、いつ頃このカンジャ町が形成されたかはわかっていませんが、大久保さんが弟子入りした昭和20年には存在していました。年を経るごとに鍛冶屋への需要がなくなってきたため、約50年前に同業者は皆辞めてしまい、朝日町には泊鉈生産者が大久保製作所の1軒のみとなってしまいました。

※1出典:朝日町(1984)『朝日町誌文化編』第一法規出版株式会社.
※2木樵(きこり)とは山の木々を伐採することによって生計を立てている人、人夫(にんぷ)は力仕事に従事する労働者のことを言う。
※3トンネルのこと


<2章 泊鉈の特徴>

画像1

大久保さんと泊鉈

昔はガスコンロはなく、かまどでご飯やお風呂を炊いていました。ほいと呼ばれる枝を、薪燃料として切り出すために泊鉈は重宝されていました。
大久保さんのもとに今でも全国から注文があり、現金書留で販売しています。そんな全国で人気の泊鉈の特徴、3つを見ていきましょう!

3つの特徴
1、板金(材料となる鉄の板)の厚さが7:3になるように割り込んで、鋼をつけたこと。(※4)「ナタの表と裏ではハガネの出る面積が違ってくるので、5:5で割り込んだ場合や裏付けした場合よりも長い間使用できた。」(『朝日町誌文化編』, 1984年, p. 312)
長期間にわたって使用するための工夫がされているのですね!

画像2

中央にある板金が、7:3の厚さに分かれているのがわかりますか?

2、鉈の先端部分に、トンビと呼ばれる突起があること。大久保さんによると、「木の枝を引っ張ったり薪を束ねるときに役立ってくる。」のです。
山仕事で使うので、その作業に特化した作りとして、このトンビが良い働きをしています!

3、鉈が緩やかに曲がっており、刃先があまり鋭くないこと。中村滝雄らによると泊鉈は、「鉈の刃先は、強い力がかかります。泊鉈は、その力に耐える刃先にする為に鋼を厚くするだけではありません。刃の根元から先端にかけての断面は、トンビの嘴のような曲線を描いています。また、泊鉈の使用方法は、肩を軸に、上前方から下後方へ移動するように切断します。その為、手に持った鉈は、大きな円孤を描くような動きをします。その結果、木の切断面は、美しい楕円形となります。このような動きと刃先の形を有効に使用するには、鉈全体の形態が、刃先を内側にして緩やかな曲線を描いているとよいのです。」(※5)
ここから、特徴2と同じように、木を切るという行為に合わせて鉈が設計されているからこそ、多くの人々に好んで使用され、愛されたことがわかりますね!

泊鉈の呼び名は、越中鉈、とんび鉈といくつかあります。泊鉈が全国的に有名になったため、土佐、広島、越前、三条にもトンビのついた鉈が作られているようです。ただ、大久保さんは弟子も従業員も採用したことないため、特徴的なトンビの外見だけ真似て作られているものがほとんどだそうです。特徴で見たように、トンビ以外にも拘っている部分があるため、外見だけを見て全く同じ鉈を作ることは難しいそうです。

※4詳しい製造方法は、次の章で紹介します。
※5中 村 滝 雄・今 淵 純 子「平成11年度技に生きる~富山の手仕事~第4回『道具を作る』~鉈職人と鑢職人~」県民カレッジテレビ放送講座テキスト一覧、掲載日不明(https://www2.tkc.pref.toyama.jp/contents/furusato/tvkouza/99waza/t99-4.html, 最終閲覧日:2021年6月30日).


<3章 製造方法>

泊鉈の製造方法を紹介します。『朝日町誌文化編』(1984年, p. 311-312)に記載されている、泊鉈の野鍛冶として名高かった「越間鍛冶屋」での方法と、大久保さんから教えていただいた情報をもとに、まとめています。大久保さんは、この越間家の円次郎さんに、泊鉈の作り方を習っています。大久保さんの経歴については、次回の記事で詳しく紹介します。

1、板金(材料)を注文に応じて切断する。女/年寄り、男、特大と3段階のサイズがあった。
2、鉄を鍛える。これは、「鉄を伸ばして形を作っているのでは無く、鉄を粘土のように練って粘りを出したり強さを出す作業」(※6)のこと。この作業を火作る(ヒヅクル)とも言う。
3、鉄の厚さが7:3になるように板金を割る。割り込むという作業。
4、割り込んだところに鋼をつける。
5、トンビを作る。別にトンビの部分をつけるわけではなく、本体の一部を曲げて作る。

画像3

6、やすりをかけて、刃を削り出す。

画像4

7、焼きを入れて刃の硬さを調整する。
8、刃に磨きをかけて、柄をつけ、ステッカーを貼れば完成!

画像5

取材させていただいた日には、5、6の工程を見せていただいたので、その映像をご覧ください。

詳しい作業の様子を記録した動画が、「てぽクラフト」(※7)さんのYouTubeにあげられているので、ぜひ以下のリンクからご覧ください。

※6人生の中の日本刀「鉄を鍛える」、掲載日不明(http://www.katanakazi.com/tetuwokitaeru.html, 最終閲覧日:2021年6月30日).
※7てぽクラフト、再生リスト「大久保中秋名人 泊鉈」(https://www.youtube.com/playlist?list=PLA97HtV8_olPdBSnLWQq87qtWmnwZFCHV, 最終閲覧日:2021年6月30日).


終わりに

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
泊鉈についてまとめましたが、いかがだったでしょうか?
全国に移動していた林業従事者によって、全国にその素晴らしさが伝えられていったのですね!山仕事の作業に特化した作りが、人々に愛される要因となったこともわかります。次回は、大久保さんの経歴や想いについて紹介するので、お楽しみいただけると嬉しいです!


ご協力いただいた方々
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大久保製作所
〒939-0714 富山県下新川郡朝日町桜町743-8
TEL 0765-82-2187
HP : https://www.asahi-tabi.com/asahimachi/256/
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
一般社団法人朝日町観光協会
〒939-0744 富山県下新川郡朝日町平柳688
TEL/0765-83-2780 FAX/0765-83-2781
HP : https://www.asahi-tabi.com/
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

活動の様子はこちらでも見ることができます!
ぜひチェックしてみて下さいね〜!

Instagram: https://www.instagram.com/stories_in_asahitown/
YouTube: https://www.youtube.com/channel/UC4Ic-Gx0r0BCPTLp5TIdMcg
まいぷれ[黒部・入善・朝日]: https://kurobe.mypl.net/article/asahimachi-story_kurobe/


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?