シャンプーの秘密

彼女は日によって4つのシャンプーを使い分けてる。

仕事、デート、女子会。

そして、僕の知らない「あいつ」に会うとき。

そのシャンプーの存在は僕に知られたくないようで、洗面所の棚の奥の奥にある。
それはとっておきの高いものなのか、触り心地も匂いもほかのと全然違う。彼女をより魅力的にする「美しい」が似合う髪ができあがる。
シャンプーを隠してあろうが、僕がその違いに気付かないわけないだろう、と虚しくなる。

そんなことを思いながら髪を眺める僕に気づかない彼女は、今日もサラサラになった髪にあのシャンプーの匂いをまとわせてヘラヘラとぼくに抱きつく。 

その匂いが鼻を掠めるたび、見たことのないあいつが目に浮かんでくる。
彼女の髪を撫で、抱きしめていると思うとイライラする。
なにより、彼女が「僕のため」じゃなくて、あいつのためにそのシャンプーを選び、使っていることに一番腹が立つ。
誰よりも、あいつよりも、先に触れているのは僕のはずなのに。ちっとも嬉しくない。

「またあいつに会いに行くの?」

何度も頭をよぎった言葉は、いつも喉でつっかえて、声にできない。

それを言った途端、彼女は僕の元から消えてしまう気がする。
どうしても、君のその美しい髪をあいつより先に撫で、一番深いとこに触れ合って僕だけを見てくれるその時間は手放せないから。

「あのシャンプー、なくなればいいのに。」

ふと頭にうかんだ言葉。
別にあいつも「彼女の髪だけが好き」というわけではないだろうけど。
でも、わざわざ、あの人のためにシャンプーを変える理由、あのシャンプーじゃなきゃいけない理由があるのかもしれない。
だったらなくなってしまえばいいのに。

なんて、ふがいない頭が暴走したあとに「そんな都合の良すぎる話があるわけないし、たかがシャンプーだよ」と自分に笑ってしまうが、結局、今はすがれるものがほしい。
「あのシャンプーがなくなれば君はあいつに愛想尽かされて、僕の元に帰ってきてくれるはず。」という、なんとも無茶苦茶で情けない期待、というか願掛けを。

それはいつ叶うんだろう。明日?半年後?それとも5年、10年先なのだろうか。
いつになったら彼女は、僕のためだけに、あいつより高いシャンプーを選び、その美しくなった髪を誰にも触らせず、僕だけに独り占めさせてくれるんだろう。

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