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光る大地から

デラウエア州デルマーにある鈴木さんの有機農場に行ってまいりました。
アメリカに住んでいて、普通の日本料理が食べたくなりますが、「あ~、この材料ないから作るのは無理、あ~、春菊や小松菜、日本のキュウリやししとう、ナス、あ~、食べたい。夏は茗荷や山椒の葉っぱを豆腐に乗せて食べたいなあ、でも無い。」と料理を挫折することがあります。アメリカのオーガニックな野菜は美味しいのですが、日本で味わえる日本の野菜が無性に懐かしくなるときがあるのです。

今回はそんな懐かしい日本の野菜を異国の土地で耕し38年、それはそれは極上の味を作る素晴らしい農業家、鈴木さんのお話です。

私の移り住んだチェスタータウンはメリーランド州のイースタンショア、本土からチェサピーク湾をはさんで橋を超えた半島です。イースタンショアの西半分がメリーランド州、東半分の大西洋に面した側がデラウエア州です。チェスタータウンは川と湾岸に囲まれ、古い時代から港街の貿易が盛んで歴史を残した土地です。一方デラウエア、デルマーはそこから120km 南に下りたメリーランド州との境、デラウェア州側のデルマーという地域です。海のミネラルたっぷりの、良い土壌だそうです。広大な農場地帯の中をゆったりと車で走ること1時間半、一本の林道をくぐると、日本の畑のような風景が広がります。畑に植えられたニラや大根、葉ネギは元気よく雑草と紛れながら育っています。雑草は人の手で除去するそうです。

「うちの野菜を喜んで食べてくれるのは嬉しいねえ。苗も育ててくれると野菜の成長も味ももっとわかるようになるからどんどん育てて欲しいねえ。」と甘くて美味しいトマト畑の側で手を休めて、話してくれました。

鈴木ファームと言えば、アメリカ東海岸在住の日本人には有名な農家、28エーカーの土地に、30種類を超える日本の野菜を有機農法で育てています。東海岸の高級日本料理店はもちろん、コロナ禍では個人のお客さんからの注文が増えているそうです。やっぱり新鮮な野菜は葉っぱも根っこも匂いがあって味が詰まって、本当に美味しい。椎茸は香りがあって味が濃くて、口の中で広がる感触は大満足。何も味付けしなくても良いと思います。

そんな鈴木さんですが、1974年に養鶏ブリーダーとしてアメリカに移住したのち、農業家として農耕を研究し、美味しい野菜づくりに励みましたが、道のりは険しかったそうです。日本人もいない、貧しい地域だったそうです。(日本人は今もいませんが、、笑)「前へ進むことだけだった」とおっしゃっていました。信念を貫き通した凛とする中にある、涼しい目はとても美しかったです。「崖っぷち、本当に落ちてって、登るしかないんだよ。こんな経験、あんたにはないだろ。」この言葉、かなり響きました。

私の師匠、テキスタイルプランナー故、新井淳一氏の最後の言葉がまた蘇りました。
「大木を斬る姿勢で必死に生きろ。清く流れる水のようにさらさらと美しく生きろ。戦いながら、岡野 優が大成する姿を生きているうちに見せてくれ。」

まだまだ、本気がないのか、ダメだなあ、、。

植物が葉をつけるように、花が太陽を向くように、私も地面に立って、両手を空に伸ばして今日を始めようっと。大地が温度を上げて輝く中、種が開き、いま耕すものが未来の収穫を決めるのだと、 重く熟した果実を摘む時が未来にあるのだと、不思議な力が後ろから私を押しているような今日この頃です。

写真・辣韮スカーフ(鈴木農場の美味しい辣韮を描いてみました。)シルク100% 赤紫の色は辣韮の花をイメージしました。


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