毎日超短話292「街クジラ」 #シロクマ文芸部
街クジラ待ちだね、と運転手が話しかける。産まれたばかりの子を産院からタクシーに乗せて初めて家に招くところだ。目の前をその「街クジラ」が通過中らしい。
運転手はミラー越しに柔和な表情を見せながら、続けて言う。
こんなカラフルな街クジラは初めてだな。たぶん、その子が呼んだんだろう。特別なお祝いの日に現れるっていうから。だからその子は大丈夫ですよ。
わたしはなぜか涙ぐむ。
父親もいないし障害もある子。わたしがしっかりしなきゃと思っているけれど、「大丈夫」という言葉がわたしの心をふっと緩めた。
街クジラは、「ゆっくりとゆっくりと」、そう言うように目の前を通過していく。
今週は、いつも書いてる超短話に、シロクマ文芸部さんのお題をのせてみました。
産院からタクシーに乗って家に帰った日のことを思い出しながら。
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