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#276 どんなに優しくて誠実な人でも、追い込まれたら人を騙す。夏目漱石「こころ」

人間のこころは、いざという瞬間に残酷になる。

夏目漱石の「こころ」の中では、
「お金」と「恋愛」が絡んだときに人は変わってしまうことが書かれている。

普段は優しくて誠実な人でもいざという一瞬では、悪魔になる。

あらすじ。

こころのあらすじは、主人公の青年と先生が出会うところから始まる。高校の国語の時間で、先生とKについては知っている人も多いだろう。

先生が学生時代の頃、両親が他界して親戚の叔父にお世話されることになった。幼かった先生は財産管理を含めた一切の面倒ごとを叔父に任せた。頼り甲斐があって、両親も信頼を置いていた叔父ならばうまくやってくれるだろうと思っていたから。

しかし蓋を開けてみると事業に行き詰まった叔父は財産を横取りしていて、都合の良いように権利を奪おうとしていた。その姿を見た先生は「人は信頼できない」「叔父のように人を陥れる人間を心の底から軽蔑する」ようになる。

物語の後半では、成長して大学生になった先生とKという友人の話に移る。下宿していた宿のお嬢さんに恋焦がれた先生は、あろうことかKを陥れる。Kもお嬢さんのことを好きなことを勘付いた先生は、嫉妬で我を忘れてしまう。

自分の生き方と、ふとした拍子に浮上してしまった恋心に苦しむK。そんなKに対して先生は「精神的に向上心のないものはバカだ」という言葉を投げる。この言葉をかけることで、悩んでるKにダメージを負わせることができるとわかっていたから。

そして先生はKが立ち止まっている間に、Kには黙ってお嬢さんに結婚を申し入れる。
その姿を陰で知ったKは、静かに自殺をする。

という話。

この話のポイントは、自分を騙した叔父を心の底から憎んでいた先生が、恋愛で親友のKを欺いてしまったということ

誰かを騙すということは先生自身が一番憎んでいたこと。普段の先生であれば相手を騙すなんてことは絶対にしないだろう。

けどそれが恋愛という状況に陥り、嫉妬に駆られた瞬間に我を忘れてしまった。自分が有利になるようにKを騙してしまった。

人間のこころは、ちょっとしたかけ違いで変貌してしまうことが表されている。

普段誠実だから、全てを信用できるわけではない。

普段優しくて誠実だから、あの人に任せておけば良い。というのは少し甘いかもしれない。

平生はみんな善人なんです。少なくともみんな普通の人間なんです。それが、いざという間際に、急に悪人に変るんだから恐ろしいのです。だから油断ができないんです

普段はどんなに良い人でも、「お金」「恋愛」が絡むと豹変してしまうことがある。これは別にその人が悪い人だからではない。人間とは欲が絡んだ途端に豹変してしまうものということだ。

それは自分自身も同じだ。当たり前だけど、普段の生活で誰かを騙そうなんて1ミリも思っていない。なるべく人には優しくありたいと思ってるし、誠実でありたいと思っている。

ただそれはあくまで、普段の平常の時の考えだ。
これが例えば何かの拍子に事業に大失敗して、家族を路頭に迷わせてしまう状況になった時。同じように他者に誠実でいられるだろうか?

心の底から好きな相手がいて、親友がその人と良い関係になりそうな時、素直に相手を応援できるだろうか?

仕事でいっぱいいっぱいで不安な時、同僚に優しくできるだろうか?

自分は大丈夫だろう。とか、あの人は大丈夫だろう。は通用しない。

人間のこころは、面白い。

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