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今はまだ、何者でもないあなたと。

たしか26の時、わたしは独立した。

大学を出て、就職して2年間働いて、
貯めたお金で1年制の服飾専門学校に入り直した。

卒業後は、専門学校の同期と
服のブランドを立ち上げようとした。

インターネットが今よりずっと貧弱だった当時、
服のブランドを立ち上げるということは、
「展示会をしてショップに卸す」と同義だ。

つまり、半シーズン分すべての
デザインを考え、
パターンを引いて、
生地を発注して、
サンプルをつくり、
展示会を催してサンプルを並べて、
セレクトショップのバイヤーを招待して、
発注してもらって、
生産して、
納品する。

そうなると、どうがんばっても、
最初に多額の運転資金が要る。
いったいいくらかかるんだろう。

仮に資金を用意できたとして、
展示会を催したとしても、
バイヤーに来てもらうためには
どうしたらいいんだろう。

まして、商品を発注してもらうためには。

そもそも発注してもらったとしても、
果たして企画から、実際に着金するまで、
いったい何ヶ月かかるんだろう。


専門学校は出た。
多少なりとも服のつくり方は学んだ。

服をつくることと、ブランドをつくること。

それは、
ボクシングと総合格闘技の関係に
似ているような気がする。

もしこの例えが適切でなかったとしても、
少なくともそれらが
まったく別の競技であることだけは断言できる。

資金繰り。

それはまさしく この世の地獄で、
いまも字面を見ただけで恐怖がよみがえり、
脇汗がにじむ。

ブランドをつくり、運営し続けるために
問答無用で求められる能力。

多岐に渡る要素のひとつに過ぎない
この一点を取り上げるだけでも、
競技性の違いが浮き彫りになる。


わたしが学校の仲間と立ち上げたブランドは
たいして売れず、ものの見事に資金が尽きて、
わずか1年で撤退を余儀なくされた。

その後、わたしは技術の道に進み、
小さな縫製工場を運営した。

縫製の仕事は、食っていけない。
あまりに貧しく、いよいよ家族にも逃げられた。

服飾学校を卒業して10数年。
長く服づくりに携わってきたが、
みじめな記憶が蒸し返されるばかりで、
いいことは本当に、何もない。

このクソみたいな業界と、クソみたいな人生。
それでも、何かを変えられないかと、
もがき苦しんできた。

仲間をあつめて、nutteをつくり、
teshioniもできた。

はじめは何者でもなかった ただの若者が、
やがて何者かになっていく様を見てきた。

会社の規模が少しづつ大きくなり、
関わってくれる人も、動くお金も大きくなった。

次の世代の職人を目指す若手の育成も、
少しづつ始められている。

それでも、何も変わらない。
もがき苦しむ毎日であることに、
何ら変わりなく、
わたしは依然として何者でもない。

苦しみの規模がデカくなっただけ、
余計にタチが悪いというものだ。

どうせ苦しい毎日なら、
せめてその苦しみをともに味わえるヤツと
仕事したい。

たとえ今はまだ何者でもなくても、
覚悟を持ってブランドの先頭に立ち、
お客様と関わってくれる人への責任を背負い、
仕事にコミットしようとするヤツと仕事したい。


teshioniでは、
デザイナーを「船長」と捉えている。

デザイナーは新たな目的地を決め、
お客様を集めてそこに連れて行く、
カルチャーの船長だ。

同時に、お客様を退屈させずに
楽しい航海を提供するのも、船長の仕事だ。

当社はそのための、安全で快適な航海を設計し、
提供するのが仕事だ。

規模が大きくなるのに合わせて
船をつくり、拡張して、
デザイナーが指し示す新しい目的地に向けて、
操舵する。

そうやってデザイナーも職人も力を合わせて、
お客様を巻き込んで、みんなでカルチャーを
アップデートさせ続けていく航海の、
ワクワク感や高揚感、安心感や居心地の良さ、
成長やカタルシスなどといったあらゆる感情を
総合的にひっくるめた幸福感そのものを
ブランドと呼ぶのだと考えている。

デザイナーはお客様に向けて、
ブランドの総合的幸福感の全責任を背負い、
毎日毎日止めることなく
甚大な熱量で新たな一手を指し続ける。

だからわれわれはデザイナーに対して、
その熱量に怯むことなく、
正しく遂行されていることに責任を負う。

これがコミットの本質だと捉えている。


teshioniに新たに育成枠が生まれた。

teshioniが
「いま船長になれる人」を求めているなら、
育成枠 maison407では
「これから船長になるためにコミットする人」
を求めている。


ブランドをつくることは、
わたしにはできなかった。

それでもやっと、
これからブランドをつくる人のための
仕組みをつくることはできたのかもしれない。

その仕組みをつかって、
何らかのカルチャーを牽引するリーダーが、
どんどん生まれてきてくれたなら、
ようやくわたしも、仕事をひとつ、
どうにか成し遂げたということになるのだろう。


これを読んでくださったあなたが、
知識や経験も浅く、フォロワーも少なく、
もし今はまだ、何者でもなかったとしても、

それでも、みんながワクワクするような
ブランドをつくって成長させることに
コミットする意思があるなら、
ぜひこの育成枠に
挑戦していただければと思います。

わたしたちにできる支援は、冒頭に書いた、
ブランド立ち上げのためのあらゆるリスクを、
限界まで軽減すること。

そのかわり、エントリーを通過するのも、
簡単ではありません。
ひとつひとつのSTEPを登ることも
至難と言えるでしょう。
残念ながら撤退しなければならないことも
当然のようにあると思います。

それでもなお、
あなたのカルチャーが必ずみんなに伝わって、
いつか幸せな経済を生み出せることを、
あなた自身が信じてコミットできるなら、
わたしたちはできる限り支援したいと
思っています。

何者でもないヤツが大きく化ける時が
一番おもしろい。

わたしと同じ、
持たざる者によるゲームチェンジを、
心から楽しみにしています。

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