『短編連載』そのソファ 第7回/全10回
結局僕はカナの意見に折れた。納得した訳ではなかったけれど、もうこれ以上この言い合いを続けていく気力が残っていなかったし、何よりカナが相当本気であることが分かってしまったのだ。
僕は最後に聞いた。
「なんでそこまであのソファにこだわるんだ?」
「……分からない」
カナは最後までそう言った。
僕たちはとりあえず銀行に行って、お金をおろし、あのソファを買った。明後日に家に到着するだろうと年老いた女性は言って、静かに笑った。そして
「ありがとう」
と言った。
それから二日後にソファがうちに到着した。ソファは大きく、うちのスペースを陣取り、もうダイニングテーブルなんて置けるスペースは残っていない。
だから「いらない」って言ったんだ。僕は自分の家にあるそのソファを見ながら何度もそう思った。
※短編集『落としたのはある風景の中で』より
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