「直感」文学 *影絵の狐*
「影絵って言うんだよ、これは」
姪っ子のミクは、僕が手で作った蝶々の影を見て喜んでいた。
壁に映る、その不恰好な蝶々は、まるで今羽化したばかりみたいであまりにも滑稽なのに、ミクはただただ喜ぶばかりだ。
「うわー、蝶々、蝶々」
と目を輝かせるこの子に、「これは電灯の光を受けて出来た影の蝶々であって、本物の蝶々ではないんだよ」と、どう説明したら納得するだろうかと考えていた自分が少し嫌になった。
いや、それは別に僕が起こした事情の中にあったものではない。
大人になれば、見たものを見たもので解釈できない場面がいくつもあって、それらの積み重ねが僕という人間を作り出したことに間違いはないと思う。
次に僕は狐を形取り、それをミクに見せた。
「それ、なーに?」
と首を傾げるこの子に、これをなんと説明しようかと考えた。
でも、そうじゃない。「これが何であるか」じゃなくて、「これが何に見えたか」なんじゃないか。
僕がそう感じていたことに嘘はない。
「ミクは、何に見える?」
僕はそう言って、手首を動かしていた。
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