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『短編』スタディルーム 第3回 /全4回

 ああ、ダメだ。そんなことを考えに来たんじゃない。今は仕事に集中するためにわざわざ着替えてまでここに来ているのだから。

「ドリンクバーとシーザーサラダでよろしいですか?」

店員に確認をされ、俺は「はい。お願いします」と答える。

 深夜で空席もいくつかあったが、それなりに人は入っていた。平日の深夜時間にファミレスにいるなんて、普段どんな生活スタイルの人なのか気になってしまうが、それは自分も同じことだと思い考えるのをやめた。

 薄く曇った窓ガラスの向こう側、喫煙席には大学生らしき数人のグループが一つとひたすらパソコンに何かを打ち込んでいる俺と同い年くらいの男性、それと男性の二人組みしかいない。やはり喫煙席は撤廃か、もしくはもっと狭く取るべきだろう。


 パソコンを開くと、様々なファイルやデータで散らかったデスクトップ画面が出迎えた。これを見るとうんざりするが、だからといって整理するのもまた面倒でそのままになってしまっているのだった。

 きっとこれを整理したらやる気も出るのだろうと分かってはいるが、それでも手を付けようとしないのは自分の中でさほど重要だと思っていないからなのかもしれない。散らかってはいるものの、目当てのファイルは大体すぐに見つけられる。まあ昨日も開いていたファイルだ。

 そう簡単に見失ったりはしない。耳に雑音が入り込んでくるが、不思議と集中しているとそれらは次第に聞こえなくなってくる。これがなぜだか鳴き声はそうはならない。どこかで聞いた、程よい雑音は集中力を高めるという話は本当なのかもしれない。

 資料を作り始めて三十分くらい経つとそういった時間が訪れる。そうするともう時間というものの間隔がなくなって気付けば二時や三時になっていることがよくあった。入った時にまばらにいた客もいつの間にかぐっと減っていて、ますます自分は何をやっているのだろうという気になってくる。

 しかし衣江には感謝しないといけない。「大丈夫だよ」と言っていた俺のかりそめの台詞など、彼女には簡単に見破られていたということだ。それに彼女だってまともに睡眠を取れていないはずなのに、まだ俺に気を遣えている。「ありがとう」の一言くらい言わなくてはいけないな。仕事を一通り終えた深夜三時。いつもそういったことを考えるのに、すぐ近くの家に帰る頃には既に忘れてしまっていて、泥のように布団の中に潜り込んでしまう。そして七時の目覚まし時計に起こされ、まだ眠気の残る体を必死にたたき起こしていつものように会社へと向かっていく。

 毎日がその繰り返しだ。決して悲観的になっているんじゃない。だけど、昔は楽しかったな、なんて、どうでもいいようなことを考えたりもした。

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