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「直感」文学 *向こう側の声*

 突然、向こう側の声が聞こえるようになった。
 向こう側、というのはつまり、”あの世”ということであって、つまり、”死者”の声ということになる。

 それが僕に訪れたきっかけは自分でもよく分からないのだけど、気付けばその声は、元々そこにあったように、当たり前に耳を叩いてくる。
「あー、眠いな」
僕の耳を訪れるその声はいつだってけだるそうでいて、それを聞くたびにうんざりした気持ちになるのは言うまでもなかろう。
「しっかしまあ、今日は暑いなー。そうだよなー、だって真夏日だって、天気予報のお姉さん言ってたもんなー」
しきりに耳を訪れるその声を僕はひたすら無視していた。無視をしたい訳じゃない、出来ることなら「黙ってくれないか?」と一言伝えたいのだけど、僕にはその声の主の姿が見えない。全くもって、今どこに存在しているのか分からない。声は耳元でもなければ、遠い距離でもないような、そんな微妙な距離感で耳に届いてくるから、”アタリ”を付けるのだって容易ではない。
「Tシャツが汗びっしょりだよ。帰ったら着替えなくちゃなー」
どうやら汗はかくらしい。……いや、そんなことはどうだっていい。その声は随分とおしゃべりであって、随分と陽気だった。だけど僕に直接問いかけてくることはない。そこから見えてくるのはたぶん、その声の主にも、僕が見えていないのだろう、ということくらいだった。

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