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「直感」文学 *”ホットワイン 600円”*

「なあ、あそこにホットワインって書いてあるんだよ。……あれ、どう思う?」

向かいに座ったトオルが不意にそんなことを言うから、僕は彼の視線を追っかけて、そのメニューが書かれた紙を見つめた。

 ”ホットワイン 600円”

 確かにそこにはそのように書かれていた。

「いや、暖かいワインなんじゃないの?」

 僕がそう言うと、

 「そんなもんは分かってるっつの。そうじゃなくて、美味いのかな?って話だよ」

 トオルの視線がようやく僕に戻る。

 「気になるなら頼んでみればいいだろう?」

 僕は彼を急かすようにそう言って、その返答を待っていたのだけど、それからしばらくトオルは口を固く結んで腕を組んでいただけだった。

 「いや、マズイだろう」

 やっと声を出したかと思えば、それは諦めの言葉だった。

 「飲んでみたいと分からないだろう?」

 「ああ、そうだ。それは確かに分からない。だけどな、俺はな、知らない後悔より、知った時にそれがハズレだったという現実の方が辛いんだ」

 トオルはそう言って、テーブルに置かれているビールを一気に飲み干した。

 「勝手にしろよ」

 僕はそう言って、枝豆を口にする。……まあ、それがトオルの考えなのであるのなら、仕方ないだろう。

 ”ホットワイン”と書かれた紙は、ただ僕たちを空虚に見つめるばかりだった。

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