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「直感」文学 *嫌いな人*

 「人ってどこから嫌いになる?」
 彼女はそんなことを僕に問いかけた。さて、人のことはどこから嫌いになるだろうか。僕は考えてみるけれど、……いや、考えてみて初めて気付いたのだけど、”嫌いな人”なんて僕にはそんなにいない……。
「……嫌いな人、そんなにいないかも」
「うそでしょ?普通いるでしょ、嫌いな人くらい」
そう促されるから、僕はもう一度改めて(脳内を整理した上で)考えてみるのだけど、……そう簡単に見つかるものではない。……いやしかし、僕自身も嫌いな人いないなどとは考えたことがなかった。いるはずだ、と自分に対しても思うものだ。ただ、いざこうやって面と向かって聞かれた時に正しい答えを導けない。
 例えば、◯◯な人が嫌い、◯◯でない人が嫌い、というのなら答えられるかもしれない。だけど誰か人物を特定するというのは、いささか難しい。……嫌いな人。……嫌いな人。
「なんでそんなに悩むのよ。すぐ出てくるもんだと思うけど」
「いや、それが……」
僕は一度咳払いをしてから、「いない。というか、思い付かない」と言った。
「じゃあ、この質問はどう?」
彼女は踵を返して、次の質問を投げる。
「あなたの好きな人は?」
……さて、また僕は頭を悩ませた。そんなグダグダしている僕を見た彼女は
「あなたは好きな人もいない、嫌いな人もいない、周りにいる人みんな、好きでも嫌いでもないのよ」
そう言われて少しムッとする。
「まあでもいいんじゃない。あなたらしいわ」
僕はどうにか、好きな人もしくは嫌いな人を提示してやろうと考えた。それでもやっぱり思い当たる人はだれもいない。……しいて言うなら、こんな質問をする君が嫌いだ、という言葉を言おうとしてから、それでもやっぱり飲み込んだ。

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