落としたのはある風景の中で

『短編連載』そのソファ 第3回/全10回

 そう、ここからが本題なのだ。
 僕たちは家具屋を目指して歩いていた。安価な家具が売っている大型の家具屋だ。そこを目指していたはずなのに、カナは本当に小さな一つのインテリアショップを窓の外から眺めていた。……オシャレ、というのだろうか?そこは古さを感じさせる匂いを放つようなお店だ。
「アンティークって言うのよ」
僕の気持ちを察したかのようにカナが言う。
「へえ」
特に感想も述べずに僕は本来行くべき場所へと向かおうと足を進めた。
「ねえ、待って」
カナの声が僕を引き止めた。僕が振り向くとカナはガラス越しにある商品を見ていた。そのソファだ。焦げ茶色の、革張りの。
「ちょっと見たい」
「ええ……」
躊躇する僕なんて関係なしに、カナは店内へと入っていく。しょうがなく僕はその後を追い、店内へと足を踏み入れた。


※短編集『落としたのはある風景の中で』より
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