「直感」文学 *「マモル」*
「少しだけでもいいか」
マモルはそう言ってから、ゆっくりと目を開けた。
マモルはきっと、何かを決意したようでもあったし、何かを諦めたようでもあった。
つまりそこには何かを清算しようとする試みが感じられる。
ただそれだけであるように、……いや、ただそれ以上の物事を収集するように。
しかしマモルには失うものは何もなく、いや、欲するものだって何もなかったのだ。
マモルが持っていたものはただ一つ、そう、マモルというその名前だけだった。
マモルはもう一度目を閉じてから、ゆっくりと目を開ける。
マモルの視界にあるのは、だだっ広い夜空、ただそれだけに過ぎない。
冷たい風が吹き、静寂よりも静かな空だった。
点々と光る星を眺めながら、マモルはいつになったら自分の星に帰れるのかと想いを巡らせていたが、本人にだってそれが叶わぬことだと分かっていたようだった。
マモルはもう自分がこの地球という星で生きて行くことに決心が付いていたし、それにそれ以外の選択肢はマモルには与えられていなかった。
「どうしようもない」
マモルの口から白い息と共に言葉が漏れた。とても冷たい息だ。
マモルはそうやって平静を保とうと試みたけれど、それは簡単な情事ではない。
マモルは自分が本当に欲しているものは何なのか考えてみた。
自分の星に帰ることなのか?
その想いが叶うことなのか?
いや、きっと違うのだろう。
マモルがきっと欲しているのは、この星に住む人間という生物が持っている、感情というものなのだ。
そして欲求というものなのだ。
マモルはこの星で生きていくことを決めた。
もちろんそれ以外の選択肢が与えられなかったことも一つの理由なのだけれど、何より、
マモルはこの星の人間という生物が好きだったのだ。
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