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「直感」文学 *変わらない私たち*

 ふと、吹いた風が随分と生緩い。夏もすぐそこにあるのだと実感させられて、私はまた歳を重ねることを思い出す。
「もうミサトも30歳かー」
「いいから、そんな確認いらないから。サユキだって冬になったら30歳になるのよ?分かってるの?」
「分かってるって!そんなの言わないでー!」
私たちはもう20年程の付き合いになる。もう30歳を手前にしているというのに、二人で話している内容というのは20年前のそれとあまり変わらないように思えた。……なんて成長していないのだろう。なんだかそんな自分に悲しくもなるけれど、それがサユキも同じだと思えると少し安心する。
「やばくない?私たち。こりゃ早くいい人見つけないと売れ残っちゃうよ」
「サユキはいいじゃない。彼いるんだから」
「そうだけど……、結婚とかそういうことあんまり考えてなさそうなんだよねー。それよりもミサト!あんたはもっと積極的に狩らないと!」
「狩らないと、って……」
「ううん、これは狩りよ!狩り!それくらいの心持ちでいないと本当に取り残されちゃうよ。いいの?私がウェディングドレスを着て、とても幸せそうな時に、ミサトは良きパートナーもいない寂しい心持ちで私を見ることになるのよ?」
「うるさいって!」
「だから、ちゃんと狩らないと!」
また緩い風が吹く。夏はもうすぐ訪れる、そして私は30歳になる。それはどうしても変えられない現実。だから人は、その他の変えられる現実を切磋琢磨し、頑張って生きているのだろう。少しでも幸せになりたいから。
「じゃあさサユキ、……誰か紹介してよ」
「お、その気になったな?」
「いいから」
サユキはスマホを取り出し、画面を指でなぞっている。
 あ、29歳の目標が今更出来たか。30歳までに彼氏を作るぞ。そう心の中で決心して、サユキの言葉を待っている。

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