「直感」文学 *抱える。走る。*
雨が降った。
何の予兆もなく、何の約束もなく、全く僕の許可なしに、雨はあまりにも強く降り注いできた。
傘を持っていなければ、もちろん合羽なんてものも持っていない。
僕にはその雨を避ける手段がなく、ただ無防備にそれらを受け止める(もしくは受け入れる)しかなかったのだった。
先ほど書き上げたばかりの絵を守ろうとキャンバスを抱えて、ただ雨の中を急いで走っていくけれど、走ればその分だけ顔は濡れたし、キャンバスだって水分を含む。
どんな手立てもないなかで、それでもただこの絵を彼女に見せたかっただけなのだ、僕は。
きっと見せる時には絵も滲んでしまっていることだろう。
それでも今、どうしてもこれを彼女に届けたいのだ。それは今でなくてはならないし、昨日でも明日でもダメなのだった。
髪は十分に濡れて、端から水滴が何度もこぼれた。
かまいやしない。
僕は、その絵を大切に抱えながら雨の中を走っていった。
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