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「直感」文学 *小さな復讐*

 もう随分と長い休みをとっていた。

 致し方ない。だって俺は俺の望まない形でクビになった訳で、俺としてはもっと働けていたはずなのだ。まあたしかに、俺のミスで会社は多少の損失があったけれど、それで会社が傾いてしまうものなんかではない。本当に微々たるものだ。
「世間の目があるんだよ、うちくらいの会社になると。だから斎藤くんには悪いと思うけど、ここは引き下がって欲しい」
上司である掛川にそう言われ、もちろん俺は何も言えなかった。いや言ったってよかったのかもしれないけど、何か言う気にさえならなかったのだった。それに腹立たしくもあった。そのミスは「俺のミス」として表沙汰になっていたけれど、元を正せばその言葉を吐いた上司のミスである。というか、元を正さなくても上司のミスである。全てが起こった末路にたまたま「俺」という都合の良い〝人材〟がいただけだ。俺は何もしていないし、事が大きくなるまで何も知らなかった。「当事者意識」だなんて言うけれど、知らされてもいないのだから意識の持ちようもない。

 限定的に会社を回った。
 大学卒業と同時にあれだけ就活をしたというのに、またふりだしに戻ったこの怒りを誰にぶつけたらいいのかも分からずに、それでも生活していくために仕事はしなくてはいけない。ことごとく落とされた末に辿り着いたその場所は、以前俺をクビにした会社。もちろん受かる訳がない。
「当社を解雇されたのですか?」
面接を担当する人事部の人間は何も知らない。
「はい。私は以前営業部に所属しており……」
俺は事の顛末を俺の分かる範囲で伝えた。上司の掛川が何かミスをしたことで、何も知らなかった俺はクビにされたことを。

 もちろん俺がその会社に受かることはなかった。まあそれは最初から分かっていたことだ。ただ少し憂さも晴れたし、とりあえず良しとしよう。
 そして真剣に就職活動を始めようと思った。

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