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『短編』スタディルーム 第1回 /全4回

「いらっしゃいませ!お一人様でしょうか、おタバコはお吸いになりますか?」 
「……いや、吸わない」
俺がそう言うと、若い店員は「こちら側の席へお願い致します」と言って店内のおおよそ半分のスペースへと促した。

 今の時代珍しい。店内にある席の半分が喫煙席なんて。しかも、見ての通り禁煙席と喫煙席の人の入りは明らかに違う。これなら喫煙席などなくした方がいいに決まってる。いっそ、さっきの店員の女の子にそう提案しようとも思ったが彼女に提案したところで何が変わる訳でもないだろう。それに、お節介なおじさんと思われるのも癪に障る。まあそれがこの店の方針なのだから、俺が口出しすることでもない。

 時計は丁度十二時を回ったところだ。こんな時間にファミレスに入ることが最近は日課になってしまっている。もちろん好き好んで来ているのではない。俺はただ落ち着ける場所で仕事がしたいだけだ。

 少し前に初めての子供が生まれた。そんなタイミングで、俺は随分と重大な仕事を任されている。都心から、関東近郊ほぼすべてを結ぶ大型の高速道路を建設する任務だ。その計画が発表されたのが一ヵ月程前。

 その時は散々ニュースでも騒がれていたし、街頭インタビュー映像なんか見ると「え!それは便利ですね」「早く作って欲しいです!」なんて声が多く聞かれた。それは俺のやる気を引き出させるのに十分だったが、数日もすればニュースも一切流れなくなり、あたかもなかったことのように扱われていることに少し不満を感じていない訳ではなかった。

 たとえ誰も見向きしていなくても、俺はその準備を着々と進めなくてはならない。……まあ、そんなことを言っていたってしょうがない。それに大半の仕事は誰にも見向きされていないものだ。俺だけの話じゃないことは十分に分かっているつもりだ。

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