マガジンのカバー画像

「直感」文学

133
「直感的」な文学作品を掲載した、ショートショート小説です。
運営しているクリエイター

2018年7月の記事一覧

「直感」文学 *ただ、それだけ*

「直感」文学 *ただ、それだけ*

花を渡したかっただけ。雪の降るその日、暖かいネオンの下で僕は君を待っていた。
僕はただ、君に花を渡したかっただけなんだ。

だけど君は来なかった。だから花は死んだ。うな垂れた首が示すのは、悲しみよりも絶望に近い。

君は来なかった。あの日、待ち合わせをしたあの場所に。
ずっと一緒にいて欲しいとも言いたかった。だけどそれは傲慢過ぎる。だから、ただ花を渡したかっただけ。

だけど君は来なかった。
……

もっとみる
「直感」文学 *見えない鍵*

「直感」文学 *見えない鍵*

「ああ.......」

不意に漏れたのはそんな情けない言葉だけだった。

いや、最初から間違っていたのかもしれない。

そもそも僕は自分の会社のセキュリティのことなんてあまり知らなかった。それが原因だ。

セキュリティーカードを持っている。鍵だって持っている。

それなのに、僕は会社のエントランスから出ることが出来ずに、天井からは甲高いブザー音が鳴り響いている。

ドアは固く閉ざされ、僕になす術

もっとみる
「直感」文学 *十分な落ち着き*

「直感」文学 *十分な落ち着き*

 雑多とした風景が目の前に広がっている。

 ここは大して高いとも言えない3階。

 ビル群がひしめき合い、それぞれが煌々と看板の明かりを灯していた。

 待ち合わせまではまだ十分に時間があるから、僕は近くにあったこのカフェで時間を潰していた。

 やりかけの原稿を仕上げてしまいたいたかったこともあったし、なにより落ち着く場所で一息つきたかった。

 ここはそんな僕の気持ちをくみ取るように静かで、

もっとみる