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おな
2018年6月26日 08:00
意味が分からなかった。この二人からしてみれば、私の方が意味不明な人間に映ったかもしれない。ただ、それでもやっぱり、昨日彼がここで、この席で、生姜焼きを食べたなんて事が信じられなかった。こんなに家の近くの店に来て、なんで家に帰って来ないのだろう。百歩譲って帰って来ない事をいいとしても、だったらなんで私の前から消えたのだろう。そんな事を考えていて頭に過るのは、「自分でも気付いていないところで、彼
2018年6月23日 08:30
「だからよ、昨日見たよ。ここでな」と言って、でんぱちが店主の方を見た。店主も相変わらず無口なまま小さく頷いている。この人たちは私をからかう事がそんなにも楽しいのだろうか。でんぱちというこのおやじはいいとしても、店主まで私を陥れるなんて酷すぎる。どうしてこうも皆私の傷を抉るような真似をするのだろう。「……昨日、来ましたよ。今あなたが座っている隣の……いつも座っているそこの席に座って生姜焼きを
2018年6月21日 08:00
「あなたには関係のない事です」私も私でなんでこんな正直に応えているのだろうと不思議に思う。彼がいなくなったなんて事はこの人には全く関係のない事だし、言う必要もなかったはずなのに、私はまずそれを第一に言ってしまったのだ。もう逃げ場がなかった。美味しそうな獲物を見つけたでんぱちは尚も私を攻撃し続ける。たまに生姜焼きを食べ、その合間をぬって絶えず口を開いた。随分と忙しげな口元だった。「あんたに問
2018年6月12日 08:00
私はそのでんぱちという男性の言葉を無視し、体を元の体勢に戻した。カウンターの奥では無口な主人が私の頼んだ焼き魚定食を作っている。「おうおう、いつもの彼氏はどうしたよ?」でんぱちは私の後ろからそう問いかけてくる。ただでさえ傷心なのに、こんな老人に声を掛けられていちゃ、その傷が余計に深くなるばかりだ。私はまたその言葉を無視し、カウンターに置かれているメニューを見るふりをしていた。注文も済ませ
2018年6月10日 08:00
でんぱちという男性に会ったのは、私の家の近くにある小さな定食屋で、私が何気なしに店に入り、いつも座っているカウンターの一番端の席に座り、「焼き魚定食を」と言ったその瞬間に「今日は、一人か!」と声を掛けてきたがそのでんぱちだった。会社を辞めて三日後の昼。私が驚いて振り向くと、大口を開け愉快に笑っているそのご老体が見える。嗄れた声で、顔中に張り巡らせれた皺と辺り構わず生えた髭、清潔感という言葉が
2018年6月7日 08:00
苦痛他ならなかった二週間をなんとか乗り越えた。当初長く感じていた二週間も終わってみれば、あっという間だったような気がする。 一応の形式として、会社を巣立っていく私に複数の社員から拍手が送られた。この中にいる人間で私が彼を探すために仕事を辞めたと知っているのは美知だけで、他の人は私をどう思っているのだろう。皆一様にして暖かな笑顔を向けているけど、腹の底では苦笑しているに違いない。どんな考えだっ