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店舗とは、感動を届ける場所

前職の靴メーカーへの入社。
それが、革業界への“第一歩“でした。

画家を目指して大学を中退した後、ライスワークとして選んだのが靴の販売員でした。
食べていくためとはいえ、『どうせ仕事をするのなら好きなジャンルの職を』と考えたからです。
ファッションが好きだったので最初はアパレルの販売を思い浮かべましたが、ひとつのブランドの服しか着られない毎日は考えられませんでした。
その点、靴の販売員であればファッションに携わりながらどのブランドの洋服でも着ることができます。
そんな単純な理由で選んだ職場でしたが、それが革業界に入るきっかけとなり、販売職のスタートとなりました。
つまり、現在へと繋がる人生の分岐点となったのです。

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ファッションを売ればいい。そんな感覚で“販売は簡単“と高をくくっていましたが、現実は大きく異なっており、靴の世界は実に奥が深いものでした。
お客様は、ファッションという見栄え以上に履き心地を重視する傾向が強く、革の素材、製法、フィッティングに至るまで、販売員には多くの知識が求められるのでした。
なおかつ、自分の配属先は、デパートの平場(多数のメーカーが集積された売り場)であり、複数のメーカーから販売員が集まる場所でした。
競合他社との集まりの中で、独特のルールが存在する人生初の環境。
売場にいらっしゃるお客様は、『このブランドの靴が欲しい』というよりは、その時々のTPOに合わせた物を求めてご来店されます。
複数のブランドと隣り合わせになりながら、自社の製品を販売していく。
そんな環境の中で、すさまじい販売力を持つ方がいました。
知名度の低いブランドでしたが、その方にかかると魔法のように売れていくのです。
『なぜだろう?』
『なぜ、この差が生まれるのだろう?』
自分の所属する会社のブランドも知名度はあまり高くありませんでしたが、その差は歴然だったのです。

その方は口癖のように言うのでした。
「“これください“のお客様への販売は誰でもできる。販売員は、自動販売機じゃないんだよ」
お客様のニーズを聞き出した上で、提案する。
その時探されているイメージだけではなく本来の趣味趣向までを引き出し、コンペジター(ライバルブランド)も含めた商品をピックアップし、比較。
現在のまとめ比較サイトのようなことを、目の前のお客様の要望に応えながらその場でやっていく。
その手法を見よう見まねでやることで、お客様とのコミュニケーションが取れるようになり、販売に繋がっていったのです。
それが、“販売の手法”を覚えた第一ステージとなりました。

しかし、次の壁はすぐ目の前にありました。
ライバルブランドと比較していく中で、提案する自社商品の偏りが大きかったのです。
いつの間にか自分の中で、『これさえおすすめしていれば購入していただける』という“勝ちパターン”を作ってしまっていました。
おそらく、お客様のニーズを十分に聞き出すことも出来ていなかったでしょう。

“慣れ“という良くないタームに入っていました。
“勝ちパターン”の中にいる時の自分は、人気商品の在庫を確保するべく他店へ問い合わせをし、その商品の売り上げが芳しくない店舗から余剰な在庫もらう、という戦略をとっていました。
しかし、人気の商品(=流行りに乗ったデザイン)は、当然どこの店舗でも品薄状態。
そんな中で、ふと気づいたことがありました。
売れ筋の靴と近しいデザインであるにもかかわらず、なぜか売れていない靴があることに。
たしかに、売れ筋の靴は当時の流行ど真ん中に乗ったものでした。
しかし、売れていない靴には革の質、履き心地、スタイリングなど、デザイン以上に優れている点が多くあったのです。
一見するだけでは気づけない、品物に秘められた良さ。
そこに気づけたのは、同じ売場にいた別の販売スタッフのおかげでした。
『変態』ともいうべきレベルの靴オタクで、無知な自分に靴のいろはを教えてくれたのです。
ちなみに現在この方は、オールハンドメイドでビスポークシューズを製作する職人として本場ヨーロッパで活躍しています。
当時はアイドルタイム(待ち時間)ができるとこの方をつかまえては靴の勉強をしていましたが、今考えると良い迷惑だったかもしれませんね(笑)

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そうした経験から、靴に秘められた“品物”としての良し悪しや、フィッティングの重要性を見極める目が加わり、おすすめできる商品の範囲が広がっていきました。
つまり、見た目だけでなく製品面においても心からおすすめだと言える商品が販売できるようになったのです。
それらの品物には納得いただける理由がしっかりあるため、お客様にとっても満足度の高い購入体験がお届けでき、結果としてご指名でお越しいただける方も増えていきました。
そうして次第に、私の担当する売場は、商品の売上構成が他店とは全く異なる形になっていったのです。
しかも、そうなることでかつての“勝ちパターン”の中で経験していた在庫切れも起きなくなりました。

『自分にとっては魅力的な商品でも、なぜか売れない』
販売職の方であれば、経験があるのではないでしょうか。
しかし、その魅力に気づいているのであれば、その魅力を言葉にできるよう分析していき、お客様に情熱を持っておすすめすることで、共感を生むはずです。


第二ステージで得たこれらの経験は、のちに本社で営業担当兼、商品企画担当になったときにも大きく役立ちました。
第三ステージともいうべき本社時代は、自分がこれまで培ってきた販売スキルを、卸先の販売員に伝授していきました。
しかも、ただ伝授しただけではありません。
品物の見極めというものには経験を要するため、企画から携わっている商品への“情熱“を添えたのです。
そうすることで、自分の企画した靴は売上を伸ばしていき、また、営業成績も昨年比でダントツとなったのでした。

『販売員は、自動販売機じゃないんだよ』

販売職の存在意義を実感し、誇りを持つことができたのは、まさにこの言葉のおかげです。

店舗でお客様を待つだけの時代は終わりました。
オンラインでの販売が進む中だからこそ、販売員としての魅力が問われる時代なのです。

積極的に発信し、お客様と繋がり、オンラインとオフラインの強みをフルに発揮していく。
その中でいかに商品の魅力を伝え、共感と納得を生み、品物のみならずその人自身のファンになってもらえるか。

それが現代の販売員の存在意義であり、血の通った人間同士のコミュニケーションの中でしか生まれない大きなチャンスでもあるのです。

販売員の感じた魅力を、直接聞くことのできる唯一の場所。
お客様からの感動の声を、直接聞くことのできる素晴らしい立場。

“人と人“だからこその環境に、大きな喜びを見出してもらえると嬉しいです。

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