CES 2020におけるデルタ航空のデモンストレーション

CES 2020について

今年開催されたCES 2020の話題が集まってきています。
少し前から言われていることですが、従来は家電見本市という位置づけだったイベントが、エレクトロニクス業界以外の企業も多く参加し、独自のアイデアやサービスを紹介するようなイベントに変わってきた、という報告が今年も多く見受けられます。開催前は5GとAIに注目が集まっていましたが、ふたを開けてみると、特に盛況だったのはHealth & WellnessやHome & Familyの分野だったのではないか、というお話を実際に現地に行かれた数名から聞きました。

今年のCESでは、先端技術を紹介するだけではなく、その技術を用いて消費者にどのような体験(CX)を提供するのか、といったポイントに焦点が当てられた発表が今まで以上に増えており、その分、コンセプト寄りの発表も多かった、という感想もちらほら聞きました。これはまさにTech Structureでいうところの市場ニーズ情報をどのように捉え、どのように定義するか、といった点が重要視されているということであり、ニーズと技術の関係性を考えることの重要性がより一層高まってきているのではないか、と言えそうです。

今回は、そのようなCES 2020に関する話題の中から、航空会社として初めて基調講演に登壇して話題となったデルタ航空の「PARALLEL REALITY」を取り上げ、Tech Structureを用いた分析を行ってみました。

デルタ航空の「PARALLEL REALITY」

デルタ航空は、特殊なディスプレイを開発しているMisapplied Sciences社の技術を活用して、空港のディスプレイ表示における問題を解決することをデモンストレーションしました。
デモの内容は、壁面に設置された大型ディスプレイが、それぞれのユーザーに対して異なる言語で搭乗ゲートや位置を表示する、といったものです。実際に下記の動画を見ていただくのが分かりやすいと思います。立ち位置によって、ディスプレイから見える内容が変わることが分かります。

この製品の中身のベースとなっている技術をTech Structureで書くと、下図のようになります。

図1

まず、最上位の目的は「複数のユーザーに個別にカスタマイズした情報を表示する」ことです。これを実現するためには、「ユーザーの位置にあわせて表示内容を変える」すなわち「角度にあわせて任意の画像を表示する」ことが求められます。「PARALLEL REALITY」という製品は、「異なる色の光を複数方向に同時に送る」といった特殊な機能を持つ「ドットライト」をたくさん搭載しており、これが課題の解決策となっています。

課題の解決方法の方針と解決策となる技術が決まれば、あとは製品をシステムとして完成させていくことができるでしょう。今回のデモでは、カメラとオブジェクト認識の技術を用いてユーザーの位置を検出し、それに合わせて各ドットライトの表示する光の色を制御していたようです。このような方法を用いれば、「専用のゴーグルなどを必要としない」といった価値も提供することができそうです。

図2

デルタ航空によるデモンストレーションの意義

今回のデルタ航空のデモでは、ディスプレイの技術そのものをアピールするのではなく、ユーザーにどのような体験を提供するか、ユーザー体験の質をどのように向上させるか、といったことを伝えようとしており、それが好評の理由の一つだったようです。このように、技術の性能を追求するのではなく、そもそもの実現したいビジョンや世界観をきちんと設定し、そこに向けた課題解決のために技術を最適化していく、といったアプローチの製品開発は今後より一層求められていくのではないでしょうか。そのような点で、デルタ航空は良い例を示してくれたように思います。

この「PARALLEL REALITY」は、今年の夏ごろよりデトロイト空港で実証実験が開始されるとのことです。
デルタ航空が上記のTech Structureの中でどのポイントを優先的に開発していくのかに注目したいと思います。今回は専用の搭乗券を事前にユーザーに渡すことで、表示する言語の指定などを行っていたようですが、将来的には、ユーザーの外見などの情報のみで表示すべき情報を自動識別できるようになるかもしれません。また、精度やリアルタイム性の向上といった基本的な課題もあるでしょう。

Tech Structureを用いると、製品・サービスの開発の中で重要視すべき軸(コンセプト)が明確になってきます。また、それに伴って、取り組むべき課題を整理・明確化することもできるでしょう。これらは他社と連携する際に、お互いの認識を共通化させるためにも重要です。
Co-cSでは、先端技術の調査や、Tech Structureを用いた企業・製品の分析などを行っています。ご興味のある方はぜひご連絡ください。


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