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【小説】守り神が斬る(後編)

こちらは続きものです。
前編はこちら。

***

 カランコロン……カラン。
 青い和傘を差した少年、桐人が廊下を歩く。その後ろからは、眼鏡をかけた青年、梗一が続く。彼らの姿は生徒には見えないようだ。

「学校で何かがあったつーわけじゃなさそうだな。まぁ、そうだったら大騒ぎになってるか」
「そうですね。もしそうなら、アイツ・・・が黙ってるわけがないですし」

 梗一の言葉に、桐人は苦笑いを浮かべた。図書室に来た少女は、糸が伸びている方に歩いている。同じクラスなんだろうか。

「喧嘩するほど何とやらってか? ……あの教室にいるな。行くぞ」
「はい」

 桐人が地面を蹴ると、ふわりと体が浮いた。そのまま、教室の壁をすり抜ける。教室に入った桐人は、顔を歪ませた。

「凄いことになってんな」

 少年に黒い縁が巻きついている。まるで鎖のように。鎖の影響か、少年から伸びている全ての縁に黒いモヤが絡みついている。

「何か見えましたか?」
「あぁ。梗一にも見せてやる」

 桐人がそう言うと、梗一の瞳が赤く血のように染まった。桐人と同じように。

「うわ……何ですか、これ」
「やべぇだろ。さて、この黒い縁はどこに繋がってんだ?」

 そう言い、桐人は少年の近くに寄った。カランコロンと足音が鳴るが、誰も桐人に視線を向けない。……人間も妖怪も。桐人は、少年に巻きついている縁を引っ張る。

「意外と近くに繋がってんな。鞄の中か」

 机の近くにしゃがみこみ、桐人は縁を思い切り引っ張った。少年の鞄から、小さい巾着が飛び出す。桐人はすかさず巾着を掴み取った。

「さーて、中身はなんだ?」

 桐人が巾着を開けようとすると、梗一は腰に差していた刀に手をかける。知ってか知らずか、桐人は躊躇なく巾着から中身を取り出す。

「はぁ、どっからこんなもん見つけてくるんだよ」

 巾着からは、青い石が出てきた。一見、ただの石だが……。

「妖怪の骨ですか」
「あぁ。確かにこんなもん持ってたら、おかしくなるわな」

 石からは、黒いモヤが濃く溢れ出ている。これが、少年本人や少年の縁に悪影響を与えていたのだろう。

「梗一、刀に戻れる・・・か?」
「もちろんです」

 そう言うと、ふっと梗一の姿が消える。その代わりに、桐人の手には1振りの刀が握られていた。

 梗一は日本刀の付喪神なのだ。名前はないのだが、桐人に『梗一』という名前を貰い、今の姿になった。

「めんどくさいから、石と縁を同時に斬るからな」

 ぶつぶつ言いつつ、鞘から刀を抜く。息を吐く間もなく、刀を振った。刃は石や黒い縁をスパッと切り裂き、2つに割れた石はそのままサラサラと消えていく。黒い縁もすうっと消える。

「これでいいだろ。梗一、戻っていいぞ」
「かしこまりました」

 日本刀がパッと、人の姿に戻った。桐人が「帰るぞ」というと、梗一は桐人の後ろにつく。

 カランコロン。
 軽快な足音が響く。ただ、その音に気づくものはいない。

 ───シャラン。

 1人の少女が、図書室で手を合わせる。前に来た時よりも、顔色が良い。

(お願いを聞いていただき、ありがとうございました)

 少女の彼氏は、無事に元に戻ったのだろう。手を合わせたまま、少女は心の中で言う。

(これからも、よろしくお願いします。花舞の守り神様……桐人様)

 パッと顔を上げて、少女は満足そうにその場を立ち去る。少女に答えるように、本棚の本がパタンと倒れた。


『守り神が正す』終

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